著者
砂原 正和 中川 ふみよ 﨑元 康治 市木 育敏 岩本 周士 佐々木 謙 有田 親史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cf1506-Cf1506, 2012

【はじめに】 近年、新しいアキレス腱縫合術の報告が散見され、理学療法介入の加速化によりスポーツ復帰までの期間短縮が図られている。しかし、アキレス腱縫合術後では半永続的な筋力低下や運動能力低下が生じることは周知のとおりであり、術後のアキレス腱過伸張(以下、elongation)はこれらの機能不全と関連すると言われている。今回、早期スポーツ復帰が可能であったが、elongationを呈した症例を経験した。術後経過について考察を加えて報告する。【症例紹介】 〈症例〉20歳代、女性。〈競技スポーツ〉バレーボール。〈診断名〉左アキレス腱断裂。〈現病歴〉バレーボールの試合中、後方へ踏み込んだ後に前方移動しようとした際、膝伸展・足背屈強制され受傷。翌日、当院受診され左アキレス腱断裂と診断。受傷3日後、当院にてアキレス腱縫合術施行。〈術式〉主縫合:side locking loop法、補助縫合:cross stitch法。〈術後プロトコル〉術後翌日:自動および他動ROMex開始。足関節背屈0°以上獲得時:部分荷重開始。術後4週:全荷重開始。術後6週:両脚heel raise、下腿三頭筋ストレッチ許可。術後12週以降:徐々にスポーツ復帰。〈評価項目〉足関節背屈ROM、足関節自然下垂角度(腹臥位)、heel raiseの可否、パフォーマンステスト(片脚ジャンプ、立ち幅跳び)、MRI画像判定。【説明と同意】 対象症例に対する倫理的配慮として、発表内容および目的等について十分に説明し文書により承認を得た。【経過】 プログラム立案は介入当初からelongation予防に重きをおき、術創部周囲の皮膚やアキレス腱の滑走性を維持するためのモビライゼーション、膝屈曲位で自動運動でのROMex、歩行時にアキレス腱に伸張が加わることを抑えるために足部外転・股関節外転位接地での歩行指導などの治療介入を行った。足関節背屈ROMは、術後2週に背屈0°獲得し術後3週から片松葉杖による部分荷重を開始。術後4週にはアキレス腱部痛は消失し全荷重を開始した。術後5週で足関節背屈ROM 20°まで順調な回復を認め健患差は消失、足関節自然下垂角度 においても健側、患側ともに35°と健患差は認められなかった。しかし、術後6週以降に足関節自然下垂角度は患側25°まで減少が認められ、術後11週以降には患側足関節背屈ROM 25°と過背屈を呈した。そこで、足底からアキレス腱上を経て腓腹部までのテーピングを施行しアキレス腱の伸張負荷の軽減を図ったところ、それ以降はこれらの進行は認められなかった。筋力回復の指標となるheel raiseは、術後11週で両脚heel raiseの健患差消失し、術後14週で踵挙上距離は健側にやや劣るが、片脚heel raise 20回連続挙上が可能となり足関節底屈MMT5レベルと判定した。術後16週のMRI画像判定にてアキレス腱部の高信号はほぼ消失し、足関節底屈筋力MMT5、パフォーマンステストは各項目で健患差85%以上であったため、スポーツ復帰を許可した。【考察】 elongationは運動能力と関連があると報告されており、本症例のようにスポーツ復帰を目標とする症例にとっては見逃せない所見である。本症例は早期スポーツ復帰が可能となったが、術後経過の中でelongationを呈した。本症例のelongationが生じた時期はトレーニング強度や日常生活などの活動性が増してきている時期に一致している。テーピングによる制動を行った後にはelongationの拡大は認められなかったことから、elongationを予防するという観点からは制動的な処置も考慮する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 アキレス腱断裂縫合術後のelongation予防という観点からは制動的な処置も必要となり得ることが示唆された。今回の症例報告が治療介入の一助となることを期待している。