著者
服部 光治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.3, pp.99-102, 2012 (Released:2012-03-10)
参考文献数
27

脳の形成およびシナプス可塑性に関与する分子の機能異常が精神神経疾患の発症や増悪化に関わるという例は今や珍しくない.リーリンは,胎生期の神経細胞移動や脳の層構造形成に必須の巨大(分子量430 kDa以上)な分泌タンパク質であり,シナプス可塑性をはじめ生後脳における機能も明らかになりつつある.一方,ヒトサンプルの研究や遺伝子多型の研究結果から,アルツハイマー病,統合失調症,自閉症,気分障害などの精神神経疾患にリーリンが関与することが提唱されている.そしてこれら研究の多くが,リーリンの「機能低下」が疾患発症に寄与することを示唆している.すなわち,リーリンの「機能増強」は神経難病の治療につながることが期待される.しかし,細胞レベルや生化学レベルで極めて多くの研究がなされたにもかかわらず,リーリンによる情報伝達機構の全貌は見えてきていない.さらには,リーリン機能低下をうまく再現できる動物モデルもないため,これが生体に具体的にどのような異常を引き起こすのかについてはほぼ不明である.その上で,リーリンの「機能増強」をどのように行うのかという大きな問題も残されている.本総説ではリーリンの機能について分子レベルでわかっていることを概説し,ヒト疾患における研究結果について紹介したい.また,リーリン機能増強の有力な方策の1つとして,リーリンの分解阻害が考えられるので,リーリンの特異的分解機構についても述べる.最後に,リーリンの機能解明を阻んでいる要因と,今後の展望や進むべき方向についても議論したい.