著者
服部 早紀 高橋 美保子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.879-894, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
37

目的 病院勤務看護師の季節性インフルエンザ感染予防行動と発症時の対処行動の現状を明らかにする。方法 2007年10月,1 市内の病院 2 施設の看護師全員444人を対象に無記名自記式の質問紙調査を実施した。属性(性,年齢,所属部門,同居家族),および昨シーズン中の予防行動(手洗い,うがい,マスク,ワクチン接種,自宅の加湿•換気,免疫力を高める行動)と発症時の対処行動(対処方法,対処行動までの経過時間,休職日数,他者にうつした可能性)を確認した。結果 有効回答423(95.3%)を得た。手洗いは,業務開始時,診察•処置後など多くの場面でほとんどの者が石けんや消毒剤を用いて行っていた。しかし,鼻をかんだ後は71%,髪を触れた後は53%と少なく,また流水のみでの実施者が多かった。うがいは,帰宅時が58%と最も多かった。業務中は,リネン取扱後を除き,どの場面も10%未満と少なかった。業務開始時や診察•処置前は,業務終了時や診察•処置後より,手洗い,うがいの実施者が約10~25%(割合差)少なかった。業務開始時の手洗いは同居家族あり,同居子(小~大学•専門学校生)ありで有意に少なかった(性年齢調整オッズ比[95%信頼区間]:0.32[0.12–0.84])(0.49[0.24–0.995])。診察•処置後,帰宅時のうがい,自宅の加湿,換気は,各々,同居子(乳幼児)ありで有意に多かった(2.36[1.07–5.21])(1.87[1.07–3.27])(2.29[1.32–3.97])(2.46[1.39–4.36])。 業務中のマスク着用者55%,ワクチン接種率82%であった。発症者51人中67%が発症後24時間以内に対処行動をとっていた。発症者の25%が受診せず,市販薬を服用あるいは自宅で休養した。発症者の28%が休職しなかった。その理由は,「人員不足等で休めない」が多かった。発症者の22%が他者にうつした可能性を感じていた。病院 A は発症後の医療機関受診者が有意に少なく,病院 B は配膳前の手洗い,リネン取扱後のうがいの実施者が有意に少なかった。結論 看護師自身の感染予防の意識と比べて患者への二次感染予防の意識が低かったと考えられた。現在の看護師の季節性インフルエンザ感染予防行動は同居家族の構成や勤務施設と関連していることが示唆された。今後,咳エチケットの普及,患者と接する前の手洗いの見直し,帰宅時•業務中のうがい推奨,そして感染が疑われた際に早急に受診できる体制づくりなどの対策が必要と考えられた。