著者
岡本 隆 朝見 幸司
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.1-18, 2002
参考文献数
17

Polyptychoceras spp.の示す特異な産状を解釈するために"ゾンビ・モデル"を提唱し, 静水力学的計算と水槽を用いた埋積実験の両面からその可能性を検討した.その結果, ノジュール上部に斜めの姿勢を示して保存されているPolyptychoceras spp.の化石に関して, 以下のような化石化過程が推定された(図11).1.埋没前のPolyptychoceras spp.の遺骸は, 他のアンモナイトと同じように海底に横たわっていて, その気房部の大部分には海水が浸入していた.2.ソフトグラウンドが形成されると, その中に埋積した化石にかかる浮力は一様に増加する.きわめて不均質な密度分布をするPolyptychoceras spp.の殻だけが堆積物の摩擦に打ち勝って姿勢を起こす.3.姿勢を変化させたPolyptychoceras spp.のある個体は, その気房側のターン部を海水中に露出した状態である期間保持された結果, その部分が物理的にあるいは化学的に損傷を受けた.4.その後, 新たな堆積物がこれらを覆う.堆積物の大きな圧密が生じる以前にノジュールが形成され, 殻は塑性変形を受けることなくこの状態で固定された.海水で満たされていた気房部には方解石の結晶が生じた.