- 著者
-
小泉 修一
木下 真直
- 出版者
- 日本生物学的精神医学会
- 雑誌
- 日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.1, pp.6-12, 2021 (Released:2021-03-25)
- 参考文献数
- 47
SSRI型抗うつ薬フロキセチン(FLX)およびケタミンのグリア細胞,特にアストロサイトに対する薬理作用から,うつ病分子病態におけるアストロサイトの役割を検証した。アストロサイトからのATP放出能低下はうつ症状の原因となる。FLX慢性投与はセロトニン取り込み阻害以外に,アストロサイトATP放出を亢進させ,ATP受容体依存的にBDNF産生をさせることで抗うつ作用を呈した。一方ケタミンはNMDA拮抗型全身麻酔薬であるが,麻酔用量よりも低濃度で即時的かつ持続的な抗うつ作用を示す。ケタミン高感受性NMDA受容体はアストロサイト特異的に存在し,ケタミンは本受容体を介してアストロサイトの可塑性を即時的かつ持続的に変化させ抗うつ作用を呈した。まったく異なる抗うつ薬であるが,アストロサイトに作用することで神経‐グリア連関を正常化させる作用が認められ,一部のメカニズムは共通していた。以上アストロサイトがうつ病の治療標的として有望である可能性が示唆された。