著者
木寺 冗
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.26-38, 2020-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
18

全国8つの高等裁判所は同格に位置付けられているか。こう問われれば,多くの方が位置付けられていると答えるであろう。たとえば札幌高等裁判所と東京高等裁判所で出された判決は同じ効果を持つ。しかし,人事政策上はどうか。日本の地方自治のガバナンスは司法権なきガバナンスである。高等裁判所の裁判官の人事に,定められた管轄内の地方自治体が関与することはできない。東京に所在する最高裁判所を頂点とする人事システムの中で,「優れている」と評価される裁判官が特定の地域を管轄する高裁に配属され,それより「劣る」裁判官が違う高裁に配属される傾向ははたしてあるのか。これまでの先行研究では、最高裁を頂点とする裁判官の人事システムを包括的に定量的に理解する分析は限定的であった。そこで,本稿では,ネットワーク分析と質的比較分析(QCA)を用いて,高等裁判所長官間の人事政策上の位置付けを明らかにする。その結果,平均して各期に1名前後が就任する最高裁判所裁判官を頂点とする人事システムにおいて,まず8つの高等裁判所間では確実な序列の違いが存在すること。そして,半数強の最高裁裁判官に該当する「確実に最高裁判所裁判官に到達するコース」が確認される一方で,半数弱の最高裁判所裁判官はこれに当てはまらないコースを歩んできたことも示された。この人事システムは,「遅い昇進」モデルと同様高等裁判所長官に対し最後までモチベーションを維持し,組織の選好に合致するような行動を取る誘因を与える構造となっていることを示唆する。