- 著者
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木戸浦 豊和
- 出版者
- 日本近代文学会
- 雑誌
- 日本近代文学 (ISSN:05493749)
- 巻号頁・発行日
- vol.105, pp.16-31, 2021-11-15 (Released:2022-11-23)
本稿の目的は、近代の文学理論が《感情(emotion)》と強固に結び付き展開した背景と意義を、坪内逍遥(Tsubouchi Shōyō)「美辞論稿(On Rhetoric)」(明治二六年)を例に明らかにする点にあった。本稿は「美辞論稿」における西洋の理論──《知情意(Mental Philosophy)》論及び《想像力(Imagination)》論──の受容に焦点を当て、次の二点を指摘した。第一に「美辞論稿」は一八世紀以降の《心》の理論の枠組であった《知情意》論を根拠に「文」の編制を行った。その結果《文学》固有の意義は「文」全体の中で改めて《情》に見出された。第二に「美辞論稿」は《文学》は《想像力》によって作られると主張する。この《想像力》は他者の《感情》に《同情(sympathy)》し、さらに《感情》を普遍化する力である。「美辞論稿」にはこの《同情的想像力(Sympathetic Imagination)》への関心が芽生えていた。