著者
木戸浦 豊和
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.33-48, 2017-05-15 (Released:2018-05-15)

本稿は、夏目漱石・島村抱月・大西祝の文学論や批評論を取り上げ、それらを「同情」概念の観点から考察した。三者の文学論・批評論は鍵語として「同情」の語を共有し、その概念は、他者と同一化する原理(「同情的想像力」)と、自己や他者の言動を公平に判断し、評価する原理(「同情的公平性」)の二つの面を合わせ持っている。本稿は、このような共感性と公平性とを兼ね備える「同情」概念は、アダム・スミスに代表される一八世紀西洋道徳哲学における《sympathy》の原理と接触する中から、新たに再編・形成された可能性があるという仮説を提示した。一方で本稿は、三者の「同情」概念を明治二〇年代と四〇年前後の文学場や社会状況との関連で捉え返した上で、それぞれの「同情」概念の固有の特徴についても論及した。
著者
木戸浦 豊和
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.16-31, 2021-11-15 (Released:2022-11-23)

本稿の目的は、近代の文学理論が《感情(emotion)》と強固に結び付き展開した背景と意義を、坪内逍遥(Tsubouchi Shōyō)「美辞論稿(On Rhetoric)」(明治二六年)を例に明らかにする点にあった。本稿は「美辞論稿」における西洋の理論──《知情意(Mental Philosophy)》論及び《想像力(Imagination)》論──の受容に焦点を当て、次の二点を指摘した。第一に「美辞論稿」は一八世紀以降の《心》の理論の枠組であった《知情意》論を根拠に「文」の編制を行った。その結果《文学》固有の意義は「文」全体の中で改めて《情》に見出された。第二に「美辞論稿」は《文学》は《想像力》によって作られると主張する。この《想像力》は他者の《感情》に《同情(sympathy)》し、さらに《感情》を普遍化する力である。「美辞論稿」にはこの《同情的想像力(Sympathetic Imagination)》への関心が芽生えていた。