著者
木所 稔
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.125-136, 2019 (Released:2020-09-16)
参考文献数
83
被引用文献数
1 2

日本では国産おたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎への懸念から定期接種化が進まず,接種率の低迷に伴いムンプスの全国的流行が繰り返されている.2015-16年流行期のムンプス難聴の報告数は348例を数え,定期接種の導入は喫緊の課題である.一方,海外では122カ国で定期接種が制度化され,117カ国で2回接種を採用している.その多くが安全性に定評のあるJeryl-Lynn株を含む麻しん,風しんワクチンとの三種混合(MMR)ワクチンを用いている.反面,2回接種の導入によってムンプス流行の抑制に成功した国々では,2000年代以降にアウトブレイクの再発が問題となっている.このように,国内と海外におけるおたふくかぜワクチンをめぐる課題は大きく異なっている.しかし,それらの背景には安全性と有効性を両立しがたいというおたふくかぜワクチンの本質的な特性が関連している.国内のワクチンギャップを迅速に解消するには,最新の知見に基づいた現行国産ワクチンの再評価が必要である.また将来的には,おたふくかぜワクチンの本質的な課題を解決した有効性と安全性を兼ね備えたワクチンが必要であろう.