著者
木本 洋祐
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-50, 2012

<p>東日本大震災で被災・水損した陸前高田市の行政文書(公文書)の救済を支援するべく、神奈川県立公文書館は2011年10月から1年間、被災公文書レスキュー事業を展開した。緊急雇用基金からの予算を得てスタッフの雇用や資材の調達を行い、被災現地で初期対応が進む、永年保存文書を中心とした簿冊約1,200冊を神奈川県内の公文書館に移送して修復処置を施し、同市へ返却するものである。作業は、津波等で受けたダメージの状況確認や保存ニーズの把握から開始し、修復の目標を"行政実務の現場で「使える」文書としての機能回復"と設定した。重点的に実施すべき処置内容として①内容情報の保全、②長期保存を阻害する要因の除去・抑制、③利便性(利用・保管)の確保の3点を挙げて仕上がりのイメージを共有した。他機関等との連携を通して資料の保存修復を完成に近づける、一つの環を担う自覚を持って、限りあるリソース(人員、技術、時間等)の範囲で可能な段階的保存の実施を目指した。活動を通して出た課題についても触れる。</p>