著者
末武 透
出版者
日本システム・ダイナミクス学会
雑誌
システム・ダイナミクス (ISSN:24342025)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-16, 2019 (Released:2019-04-04)
参考文献数
8

SDを使った社会モデルは、基本的には社会調査で得た実データとシミュレーション結果を比較し、モデルの妥当性を検証する。しかしながら、本稿のコンフリクトを扱ったモデルのように社会調査を実施することが事実上不可能という状況も存在する。そのような場合であっても、コンフリクトを取り扱った記述、例えば文学作品を使うことで取り扱う対象の性格や変化を数量的に検討することができる。ここではその事例として、ODAプロジェクトクトで実施されるMitigation Programへの適用を念頭に、どのように人間は怒りや憎しみといった負の感情を許しという正の感情に転嫁させることができるかを理解するためのモデル化を試みた。 コンフリクトの解消では、人々の持つ負の感情を正に変化させる必要がある。それは単純に、負の感情が閾値を超えた際に正に変換するというモデルの表現では不十分である。むしろ、負の感情だけの世界から自己組織化されるように徐々に正の心情が生まれてくるしくみとして理解すべきであろう。 本稿では、カオスから秩序や安定が生まれる状況を述べているGladwellのTipping Pointのフレームワークを使い、負の感情が正の感情に変化していくしくみを説明する標準モデルを作成した。このモデルをベースに、憎しみが許しに変化することを取扱った文学作品であるシェークスピアのテンペストをシナリオとして使うSDモデルを構築し、その動きを検証することによりモデルのMitigation Programへ適用可能性を考察した。