著者
末武 透
出版者
日本システム・ダイナミクス学会
雑誌
システム・ダイナミクス (ISSN:24342025)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-16, 2019 (Released:2019-04-04)
参考文献数
8

SDを使った社会モデルは、基本的には社会調査で得た実データとシミュレーション結果を比較し、モデルの妥当性を検証する。しかしながら、本稿のコンフリクトを扱ったモデルのように社会調査を実施することが事実上不可能という状況も存在する。そのような場合であっても、コンフリクトを取り扱った記述、例えば文学作品を使うことで取り扱う対象の性格や変化を数量的に検討することができる。ここではその事例として、ODAプロジェクトクトで実施されるMitigation Programへの適用を念頭に、どのように人間は怒りや憎しみといった負の感情を許しという正の感情に転嫁させることができるかを理解するためのモデル化を試みた。 コンフリクトの解消では、人々の持つ負の感情を正に変化させる必要がある。それは単純に、負の感情が閾値を超えた際に正に変換するというモデルの表現では不十分である。むしろ、負の感情だけの世界から自己組織化されるように徐々に正の心情が生まれてくるしくみとして理解すべきであろう。 本稿では、カオスから秩序や安定が生まれる状況を述べているGladwellのTipping Pointのフレームワークを使い、負の感情が正の感情に変化していくしくみを説明する標準モデルを作成した。このモデルをベースに、憎しみが許しに変化することを取扱った文学作品であるシェークスピアのテンペストをシナリオとして使うSDモデルを構築し、その動きを検証することによりモデルのMitigation Programへ適用可能性を考察した。
著者
中里 成実
出版者
システム・ダイナミックス学会日本支部
雑誌
システムダイナミックス (ISSN:24342025)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.31-45, 2019 (Released:2019-04-08)
参考文献数
8

銀行の貸出行動は実態経済と密接な関係があるとされ、一般的には景気上昇局面において貸出は増えると考えられている。しかしながら日本の銀行の預貸率は、アベノミクス(2012年)以降の景気上昇局面においても伸び悩みを見せている。各銀行が貸出可能額に対して様々な要因を検討し、貸出範囲を決定することは、銀行経営における重要な意思決定である考えられる。そこで本研究ではこの統計に表れない銀行経営における意思決定(リスク選好度)に焦点を当て、その原因を探るためにシステム・ダイナミックスの手法を用いて銀行業の貸出モデルを作成し、1997年から2017年までの20年間の貸出行動を観察した。その結果、この20年間の貸出可能額に対する貸出の割合は、70-60%と一定の範囲に止まっているが、特に2006年以降は低位に留まっていることが示唆された。