著者
栗田 順子 長洲 奈月 髙木 英 渡邉 美樹 中村 裕樹 入江 ふじこ 本多 めぐみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.3-9, 2018 (Released:2018-02-10)
参考文献数
19

目的 2015年9月の関東・東北豪雨により,茨城県では常総市を中心に大規模な水害が発生し,多数の避難所が設置された。県では発災直後から「避難所サーベイランスシステム」を用いて,避難所における感染症の発生状況を把握したので報告する。方法 発災日の9月10日から,県庁保健予防課が中心となり,避難所サーベイランスを開始した。東日本大震災時のそれを参考として,情報収集項目は,報告日,市町村名,担当者名,避難所名のほか,急性下痢症,インフルエンザ,急性呼吸器感染症(インフルエンザ以外),創傷関連感染症,麻しん等,破傷風,その他の発症者の有無と定めた。各市町村が避難所の有症状者の発生状況を把握し,管轄保健所を通じて県庁保健予防課に報告することとした。その後,発災日の夜にはウェブ上の既存の避難所サーベイランスシステムに避難所登録を完了させ,システム入力画面に合わせて報告項目および報告様式を変更した。結果 報告項目の変更等を行いながら,行政関係者がウェブ上のシステムへ入力された情報を共有できるよう体制を整え,一次避難所が閉鎖された12月8日まで避難所サーベイランスを実施・運用した。避難所開設期間中,咳,鼻水などの急性呼吸器症状を呈する避難者が継続的に発生した避難所や11月下旬に流行性耳下腺炎の発症者が報告された避難所がみられたが,大規模な集団発生は観察されなかった。発災当日からサーベイランスを開始したことで,避難所の感染症発生状況について迅速な情報収集が可能となり,市町村や保健所の担当者間で情報を共有することが出来た。結論 今回,ただちに避難所サーベイランスを立ち上げ,その後も継続的に避難者の健康状態を継続的に監視できたことは大きな成果であった。これは,県地域防災計画に基づいて策定された茨城県保健福祉部災害対策マニュアルに,避難所サーベイランスの実施が明記されていたことによるところが大きい。一方でその実施に当たっては,細かい手順を定めておらず,報告方法や項目が二転三転した。今後の茨城県の災害,あるいは全国での災害においても,実施要項の策定が必要であると考える。またそれらを関係者が熟知し避難所開設と同時に避難所サーベイランスが稼働できるよう防災訓練の項目に盛り込むことが必要である。