著者
本多 恭子
出版者
一宮女子短期大学
雑誌
一宮女子短期大学紀要 (ISSN:1349936X)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.107-112, 2006-12-21

新しい食生活指針では食文化や地域の産物を生かした食生活の実践が提唱されている。本研究では日本人の持つ代表的な食文化の1つである抹茶に注目し、その資料を収集するために、お茶文化の原点である京都宇治市を中心に実地調査をおこなった。その結果、お茶は1191年、栄西によって伝えられ、その後、明恵上人によって京都栂尾に茶園が誕生、さらに、その製法が宇治に伝えられ、お茶栽培が始まったと伝えられている。そして、室町時代に入り、宇治に御用茶園が設けられたことにより、宇治は天下無双の抹茶の生産地となり、以後、茶業界は当時の覇権者達によってさまざまな変容を強いられながらも「天下の茶」を不動のものとした。しかし、明治維新以降、近世幕藩体制の崩壊によって、宇治茶業界の基本組織が解体され、生産量も激変した。現在、宇治市内の茶園は100ヘクタールを下回る状況であり、当時の御用茶園もわずか1茶園のみである。しかし、宇治橋周辺にはお茶さんが立ち並び、中には、頑なに宇治茶にこだわり、伝統を守りぬいている商人もいる。今後も「天下の茶」は商人達によって守り抜かれ、その味わいや歴史、伝統が受け継がれていくものと推察された。