著者
本多 瑞枝
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.187-197, 1985-06-01

Duchenne型進行性筋ジストロフィー症(DMP)の心機能を3年間にわたって観察し,生存例と死亡例を比較検討した。対象はDMP35例(平均年齢16歳,骨格筋運動機能障害stageV〜VIII)で,観察期間中10例(28.6%)が死亡した。その死因は,心不全(6例)と呼吸不全(4例)であった。これらに原則として年1回心機図および心超音波検査を行ない,駆出時間と前駆出期の比(ET/PEP),左室拡張末期径,平均左室後壁収縮速度(mPWV),最大左室後壁拡張速度(maxDPWV)を計測し,心超音波断層像より左室局所壁運動を観察した。死亡前の検査では,死亡例は生存例よりET/PEP,mPWV,maxDPWVの低下と左室拡張末期径の増大を示した。特に心不全死例は心機能障害が著明であった。3年間の心機能の経過をみると,生存群ではET/PEP,mPWV,maxDPWVなどが軽度に低下した。心不全で死亡した症例は,死亡の2〜3年前は生存群と区別が困難であった。しかし,その後心機能障害が急激に進行し,死亡前には著明な心拡大と広範な左室壁運動低下をみとめた。剖検所見は高度の心筋線維化を示した。これに対し,呼吸不全で死亡した症例の経過は心不全死例に比べ緩徐であった。呼吸不全死例はいずれも骨格筋病変が重症で,著明な肺機能障害を特徴とした。このようにDMPでは心筋病変と骨格筋病変の進展は必ずしも並行せず,心機能障害が急速に進行する場合がある。しかも,心不全症状は死亡直前まで明らかでないことが多い。しかし,心超音波法と心機図を併用して,心機能を経年的に観察することにより心不全の早期発見が可能であり,これらはDMPの治療上有用な検査法と考えられた。