- 著者
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嶋田 哲郎
本田 敏夫
- 出版者
- 公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
- 雑誌
- 伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, pp.71-73, 2015 (Released:2017-11-10)
- 参考文献数
- 4
レンカクHydrophasianus chirurgus はインド,東南アジア,中国南部,フィリピン,台湾などで繁殖し,スマトラ島,ジャワ島などで越冬する(del Hoyo et al. 1996).本来の分布域がアジア熱帯地域であるため,日本では奄美諸島や琉球諸島など西南日本を中心に迷鳥として飛来する(日本鳥学会 2012).関東地方以北では,青森県(日本鳥学会 2012)と新潟県(風間 2012)のみである.宮城県での記録はこれまでなく(日本野鳥の会宮城県支部 2002,日本鳥学会 2012),今回の記録は,東北地方で2例目の報告となる. 著者らは2014年10月,伊豆沼(38° 43’ N,141° 05’ E)西部の水域で宮城県,伊豆沼・内沼ともに初記録となるレンカク1羽を観察したので報告する.伊豆沼でレンカクが観察されたのは,2014年10月19日と20日であった.観察された場所は伊豆沼西部の水深20cm程度の浅瀬で,一面をオニビシTrapa natansによって覆われている水域であり,個体はオニビシの上を歩きながら移動していた.成鳥冬羽と 比較して,首の脇の黄色部分がないこと,胸の黒色バンドが不明瞭であることから,観察された個体は幼鳥と考えられた(del Hoyo et al. 1996).21日以降伊豆沼ではこの個体は観察されず,幼鳥であるため同一と思われる個体はその後,伊豆沼より8km南にある蕪栗沼へ移動し,11月上旬まで観察された(鈴木耕平 私信).蕪栗沼でも伊豆沼と同様にヒシ類の繁茂した水域で観察された. レンカクは,ヒシTrapa spp.やハスNelumbo spp.,クワイEleocharis spp.などの浮葉や抽水植物帯で繁殖し,越冬期もそのような水生植物の多い水域を利用する(del Hoyo et al. 1996).伊豆沼や蕪栗沼で観察された環境は既存の知見と一致しており,この種の選好性によるものと考えられた.