- 著者
-
本間 正義
- 出版者
- 公益財団法人 アジア成長研究所
- 雑誌
- 東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.2, pp.1-18, 2021 (Released:2022-02-04)
- 参考文献数
- 20
新型コロナ禍の中で,食料の流通が狭隘になったり,一部の食料価格が高騰したりして,
食料の安定供給への関心が高まった。国際的には食料自給率を向上させる動きもある。これ
らは食料の安全保障に関わる問題であるが,その考え方や切り口は様々である。本稿では,
食料の安全保障を定義することから始め,食料自給率と食料安全保障の関係,指数化された
食料安全保障水準でみた各国の特徴,農業政策に関わる食料安全保障の論点などを通じて,
東アジアの食料の安全保障について考察する。
食料の安全保障の概念は,食料生産としての食料の存在から,その安定供給,食料供給へ
の物理的,社会的,経済的アクセスの確保,さらには食料が体内でそのすべての栄養価を摂
取されるまでの広い範囲に関わっており,食料の供給経路のどこにボトルネックがあっても
食料の安全保障は確保されない。世界ではサブサハラ地域が,東アジアでは北朝鮮が栄養不
足に陥っている人口の比率が高く,食料の安全保障が脅かされている。
一方,英国の研究組織が開発した食料の安全保障指数でみると,2020 年で対象となる
113ヵ国中,日本は8 位,韓国は32 位,中国は34 位となる。日本は食料自給率が37%と低
いが,58 項目におよぶ調査項目で他の項目が高い評価を得ている。また,食料の安全保障は
農業政策と深く関わっており,国内農業を保護する措置は直接支払いなど,市場に影響しな
い施策が望ましいが,日本,韓国,中国ともに市場を歪める価格政策への依存度が高い。
東アジアにおける食料の安全保障に最も影響を与えるのは中国であり,中国の農業には生
産性の向上や生産体制の安定化,そして様々な衝撃に対して回復する能力が求められる。こ
れらは,中国に限らず,日本をはじめとする東アジア諸国にとっても実現すべき課題である。