著者
朱 京偉
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.50-67, 2015-04-01

現代日本語では,漢語の造語力が低下し,外来語の増加に及ばないなどとよく指摘される。しかし,これは,二字漢語に限って言えることであり,既成漢語の複合によって造られる三字漢語と四字漢語は,むしろいまでもその造語力が生かされているように思われる。三字漢語と四字漢語は日常的によく使われているものの,その中の一部しか辞典類に登録されないためもあって,二字漢語に比べ,研究者の間で注目されることが少ない。このような現状に鑑み,小論では,四字漢語の語構成パターンに焦点を当て,蘭学期・明治期・現代という3期の資料を通して,通時的にどのような変化が見られるかを探ってみた。
著者
朱 京偉 Jingwei ZHU
出版者
国立国語研究所
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
no.12, pp.96-127, 2002-10

北京外国語大学本稿では,語彙史の視点から近代哲学用語の成立を考察するにあたって,明治以後の哲学辞典8種を選定し,基本的な哲学用語を抽出して検討を加えた。方法としては,西周の訳語と『哲学字彙』初版の用語が,明治前期においてどんな役割を果たしていたか,また,その後の哲学用語にどんな影響を与えたかを解明するために,検討の対象となる881語を「西周と『字彙』初版の用語」と「西周と『字彙』以外の用語」の二部類にふりわけ,その下でさらに10項目の下位分類を設けた。そして,この下位分類によってグループ分けした各種の語について,所属語のリストを掲げ,それぞれの性質を検討してみた。結論から言えば,「西周と『字彙』初版の用語」は,近代哲学用語の草創期にあたる明治前期に早く登場し,明治全期にわたって強い影響を持っていた。これに対して,「西周と『字彙』以外の用語」は,明治後期から急増し,明治末期に増加のピークに達して,大正期以後しだいに減少していくというプロセスを経ている。大正後期になると,哲学用語の創出は終焉期を迎えたといえる。また,抽出した哲学用語では,在来語と新造語の比率は大体4対6の割合になっていることも今度の調査で明らかになった。This paper clarifies how modern philosophical terminology was established. The author chose 881 basic terms from 8 dictionaries of philosophy published since the Meiji era and classified them into 10 categories. The terms from each category can be divided into two groups: (1) Terms from the works by Nishi Amane (西周) and the dictionary, Tetsugaku-jii (『哲学字彙』), (2) Terms from the others. Tables display the source of each term. The philosophical terms used in the work by Nishi Amane and Tetsugaku-jii appeared in early Meiji, and had great influence during the whole period. The other terms increased drastically in the latter part of Meiji, and reached their peak at the end of the era. Their use gradually decreased in the Taisho era. We can consider the formation of modern philosophical terminology to have been completed in this time. This research also revealed that the ratio of traditional to newly coined terms was about 4:6.
著者
朱 京偉 Jingwei ZHU
出版者
国書刊行会
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
no.10, pp.80-106, 2001-10

北京外国語大学本稿は,『哲学字彙』初版・再版・三版の訳語の性質を明らかにしようとして,初版訳語の調査(1997)に続き,再版と三版の訳語をとりあげて検討したものである。再版については増補訳語の字数別で,また,三版については収録語の急増をもたらした四つの面,つまり,見出し語と訳語の増加,小見出しの増加,注脚付き語の増加,および哲学者人名の増加から,それぞれ検討した。再版の増補訳語の中で,とくに日中の現代語でともに現存するC類語とD類語に注目するほか,現存する一部の三字語・四字語にも留意すべきであろう。一方,三版の改訂が幅広く行なわれたため,増補訳語も,専門語に偏るものと一般語に偏るものとが混在していて,『哲学字彙』の専門語辞典としての性質を多様化するとともに,曖昧化してしまった。明治末期における三版の位置付けといえば,かつて初版が持っていた先進性が失われ,単なる対訳辞書の一種に過ぎなかったのかもしれない。