著者
朱 寧嘉 植田 憲 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1_39-1_48, 2012 (Released:2012-07-11)
参考文献数
34

本稿は、中国・浙江省の嘉興地域において繰り広げられてきた船上生活を取り上げ、前報において導出した「ものづくり」「生活づくり」のデザイン指針である「少物」デザインが、どのように体現されてきたかを明らかにすることを目的としたものである。調査・考察の結果、以下を明らかとした。(1)船上生活をする人びとは、陸上生活者にとっては廃材・端材とみなされるものですら資源と認め、徹底的に使い尽くす知恵を培ってきた。(2)人びとは、きわめて限られた「もの」「空間」「エネルギー」「風水」を、それぞれの特質を見極めつつ、「混用」「多用」「代用」「転用」「愛用」に基づいて循環的に利活用しながら生活を構築してきた。(3)陸上生活者との交流は、陸の民に水環境の存在を身近に引き合わせる貴重な機会を創出する役割を担ってきた。今日の中国において求められている「節約型社会」の構築にとって、きわめて優れた「少物」デザイン要素が認められた。