- 著者
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杉山 孝一郎
- 出版者
- 山口大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
平成22年度には、大質量星(太陽の8倍以上の質量)の形成メカニズムを解明するため、大質量星形成領域W75 North (W75N)に付随する6.7GHzメタノールメーザのVLBIデータ解析に着手した。W75NのVLBI観測は、大学連携VLBI観測網(JVN)を用いて2008年10月、および2010年8月に行われ、その2観測間での固有運動(視線方向に垂直な方向への運動)検出に成功した。W75Nのメタノールメーザは空間的には南北方向に伸びた楕円状の湾曲構造を示しており、その楕円上に直線的な視線速度の勾配が見られた。これは単純な回転円盤モデルに良くフィットし、その中心質量は約8太陽質量と算出された。今回検出出来た固有運動は、反時計回りの回転運動を示しており、視線速度情報を加えた3次元速度情報に対して膨張/降着運動を伴う回転円盤モデルを用いた3次元モデルフィットを行った。その結果、誤差の範囲内で膨張/降着を伴わない単純な回転運動をしていることが明らかになった。これは視線速度のみに対するフィッティング結果に矛盾していない。この結果は、形成中の大質量原始星の周囲に回転円盤が存在し得ることを強く示唆しており、形成現場の回転運動を固有運動として直接的に検出出来た希な観測例となる。さらに、他の大質量星形成領域からJVNを用いて検出された固有運動(Cepheus A:降着+回転運動、Onsala 1:膨張運動)との違いの要因についても議論した。原始星周囲のダストや電離ガスなどから検出される電波連続波放射と空間的に重ね合わせることで、運動の違いは大質量原始星の進化段階の違いで良く説明できることがわかった。これにより、多数のメタノールメーザ天体で同様な固有運動計測を行うことにより、大質量原始星の進化をメーザの運動として捉えられることを示すことが出来た。これらの研究の一部は、査読論文"Sugiyama et al. (2011), PASJ, 63, 53"としてまとめ発表した。