- 著者
-
杉戸 智子
- 出版者
- 日本土壌微生物学会
- 雑誌
- 土と微生物 (ISSN:09122184)
- 巻号頁・発行日
- vol.65, no.1, pp.34-40, 2011-04-01 (Released:2017-05-31)
- 参考文献数
- 58
- 被引用文献数
-
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日本の畑地のおよそ半分を占める黒ボク土では施肥されたリン酸が土壌に吸着され,施肥効率が悪いことから,施肥や土壌改良資材として多量のリン酸が施用されてきた。また,低温では作物のリン吸収が抑制されるが,リン酸増肥により土壌からのリン供給力を補償できること,リンの土壌への蓄積による障害は生じないとされてきたことによりリン酸の多量施肥が助長されてきた。しかし,農地から土壌とともに流出したリンが水系汚濁の原因となる,病害発生を助長するなどの害が起こるという知見が示されるようになったことから,リン酸の適正施肥の必要性が認識されつつある。確かに低温条件下では作物のリン吸収は抑制されるが,それは土壌溶液中のリン濃度の低下だけではなく,根の伸張抑制や養分吸収能の低下など,作物側のリン吸収能が低下することも原因であるため,単にリン酸を多量施肥することで改善されるものではない。むしろ,リンの蓄積による害を回避するためにリン酸を適切に施肥することが重要である。しかし,従来畑土壌のリン酸肥沃度評価法として用いられてきたTruog法は,黒ボク土壌においては作物のリン吸収量との相関が低いという知見があり,黒ボク土壌に適したリン酸肥沃度評価法の確立が必要である。そこで,有機態リンを評価することの重要性について提案し,中でも微生物の代謝回転に伴って作物が吸収できるリンとして土壌中に供給される土壌微生物バイオマスリンは作物のリン吸収量と相関があることを示した。土壌微生物バイオマスリンは,リン酸固定能の高い黒ボク土壌のリン酸肥沃度を評価できる指標となり得ることから,今後は土壌微生物バイオマスリンの簡易測定法の開発や,土壌微生物バイオマスリン量を増加させることができる土壌管理手法の知見を積み重ねることが必要と考えられる。