- 著者
-
杉本 光繁
- 出版者
- 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
- 雑誌
- 日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.10, pp.2345, 2018 (Released:2018-10-22)
- 参考文献数
- 1
【目的】プロトンポンプ阻害剤(PPI)の長期投与によって,ヘリコバクターピロリ菌(HP)感染者において胃粘膜萎縮が進行することが報告されている.われわれは,HP除菌治療を受けた既感染者におけるPPI長期使用の胃癌発症に与える影響を明らかにするために本検討を行った.【デザイン】この検討は,2003年から2012年までの間にクラリスロマイシンを使用した3剤除菌治療を行った外来患者を対象として,香港の健康データベースを使用して行われた.このレジメンで除菌できなかった症例,除菌治療後12カ月以内に胃癌の診断がされた症例,除菌治療後に胃潰瘍を発症した症例は除外した.また,胃癌が診断された半年以内にPPIやヒスタミン受容体拮抗薬(H2RA)が開始された患者はバイアスを考慮して除外した.われわれはプロペンシティスコアを利用したCOXハザードモデルを使用してPPI内服による胃癌発症リスクを評価した.【結果】63,397人の対象者の中で153人(0.24%)が平均7.6年の観察期間中に胃癌が発症した.PPIの使用で胃癌発症のリスクが2.44(95%CI:1.42-4.20)倍に有意に増加したが,H2RAの使用時は0.72(1.48-1.07)とリスクの増加は認めなかった.また,胃癌発症のリスクはPPIの投与期間と正の相関を示し,投与期間の延長に伴いリスクが増加した[PPI内服1年:5.04(95% CI:1.23-20.61),2年内服:6.65(1.62-27.26),3年内服:8.34(2.02-34.41)].PPIの非内服者と内服者の10,000人年あたりの胃癌発症リスクの差は,4.29(95%CI:1.25-9.54)であった.【結論】長期間のPPIの使用は,HP除菌治療後にもかかわらず,胃癌発症リスクを増加する可能性があり,使用する際には注意を要する.