著者
杉本 恵司
出版者
奈良県立吉野高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

研究目的 森林のもつ多様な機能を幅広く学習できる教材は甚少である。そこで、本研究は特用林産物(山菜類・きのこ等)が人々の生活に密着している例を多く取り入れ、生徒自らの体験と照合して学習できるデジタル教材を開発する。また、里山地域の小・中学校向けの教材として、広葉樹林帯と針葉樹林帯での生物多様性を比較する教材もあわせて開発する。研究成果(1)デジタル教材 Excelを利用し、特用林産物を学習できるをデジタル教材を作成した。学習対象とした特用林産物は、山菜類・きのこ・薬用植物・生活利用物の4品目で、生徒自らの操作で学習でき、CDディスク1枚に収納したデジタル教材となった。その教材を活用した実践授業を11月4日に、勤務校の科目「森林科学」において行った。授業の前後でアンケートにより生徒の特用林産物に関する意識を調査した。その結果、生徒が知る特用林産物の平均個数と、利用例の平均個数がともに授業後に増えた。また、複数の生徒から「特用林産物は、国産・無農薬なので安心して食べられる」の感想があり、今後「食育」の視点から本教材の活用が期待できた。一方、学習概念の構成要素を対象とした因子分析は、今回のデータが十分でなく課題を残した。(2)生物多様性教材 4月から5ヶ月間、広葉樹林帯と針葉樹林帯において、ピットホールトラップを設置し、甲虫類・節足動物類等の種と数を調査した。その結果、広葉樹林帯の方が捕獲生物の種類も数も多かった。その原因は、広葉樹林帯では光が内部にまで届いて明るく草本層の発達があるが、針葉樹では草本層の発達がないことに因ると考察された。次に、土性調査により最大容水量を比較した結果、広葉樹林帯の方がその値が大きかった。その原因は、植物の草本層の発達が土性の腐食層の形成に大きく影響したことに因ると考察された。そして、これらの成果をCD1枚に格納した教材に仕上げた。
著者
杉本 恵司
出版者
奈良県立吉野高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的近年、多くの環境教育における取り組みが行われるようになったが、それらは理論面・技術面共に未熟で一過的な体験学習で終わっていることが多い。本研究では、環境教育のうち森林を題材とした森林環境教育における具体的な学習プログラムを構築しその学習効果を明らかにすることを目的とした。研究方法高等学校・森林科学科の科目「環境科学基礎」・「総合実習」・「森林科学」における学習内容のうち、人と自然との共生を意識できるものや森林の環境保全機能を実際に体験できるものを精選し、森林環境教育の学習プログラムとして構築した。学習効果については、授業を受けた生徒に対するアンケートを実施し、授業前後における生徒の環境に対する意識変化を調査することでその学習効果を検討した。研究成果科目「総合実習」では従来の演習林実習の他に、森林のもつ環境保全機能を実体験できる学習内容を加えた。また、教室内で授業を行う科目では開発したデジタル教材を利用した授業を行い、それらの題材を森林環境教育の学習プログラムとして編成し構築した。デジタル教材は、生徒の「衣・食・住」に関わる直接経験による既有スキーマを活用できるデジタル教材に仕上げた。例えば、「コウゾと和紙」・「クズとくず餅」等を題材として、生育中の植物とその利用物を同時に見せることで、生徒自らが独自の体験と結びつけ、自分の興味・関心に適応した題材で森林環境について学習する構成主義的学習指導を試みた。生徒に対するアンケートの調査を検討した結果、環境に対する内発的動機づけの段階として、以下の4つがあることを考察した。I.環境に対する感性の芽生えと育成II.森林等の自然の中に"共生"を学ぶIII.人間の生き方を含めて地球環境の未来を考えるIV.持続可能な地球環境のための行動をとる、である。さらに、生徒の「衣・食・住」に関わる直接体験を既有スキーマとして活用する構成主義的学習指導が森林環境教育には有効であることが伺われたが、その効果の客観性・科学性に検討の余地が残り今後の課題となった。