著者
千藤 咲 森阪 匡通 若林 郁夫 村上 勝志 吉岡 基
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.169-177, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
28

動物の社会構造解明のためには,個体識別を行い,個体間の相互作用を観察することが必要である.しかし,背びれも体色パターンもない野生下のスナメリでそれを行うことは困難である.そこで,飼育個体を対象に行動観察を行い,個体間関係とその頑強性を明らかにすることを目的とした.鳥羽水族館と南知多ビーチランドで飼育されているオス5個体,メス6個体を対象に,個体同士の社会行動を目視とビデオ録画により,計54日間,437時間観察・記録した.観察された社会行動のうち,背擦り行動についてバウト構造が認められたため,バウト分析を行い,2分以内の背擦り行動を同一バウトとした.水槽内の同居個体の構成が変化することを社会的撹乱とし,撹乱の有無や前後で個体間関係の変化を比較したところ,撹乱がない時に社会行動を行った8ペアのうち3ペアは,長期的に安定した親和的な関係性を示し,この関係性と性別や年齢などの組み合わせには明確な関連はみられなかった.また,これら3ペアには,撹乱の前後で関係性が変化しなかったペア,いったん敵対的に変化しても撹乱翌日には元の関係性に戻ったペアがいた.以上の結果から,飼育下のスナメリには社会的撹乱に対して頑強な,安定した個体間関係を持つペアが存在する可能性が示唆された.