著者
村上 孝弘
出版者
「図書館情報メディア研究」編集委員会
雑誌
図書館情報メディア研究 = Library, information and media studies (ISSN:13487884)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-12, 2017-09-30

本稿では、大学図書館実態調査の「館長の地位」に関する調査項目に着目し、その項目が設置された歴史的背景について『国立大学図書館長会議議事要録』などの一次資料から明らかにした。「館長」の地位は、大学図書館基準をはじめ大学図書館関係法規において早くから重要なものと認識されていたが、各大学の実態は法規とは大きくかけ離れていた。そのため、大学図書館近代化の時期(昭和30年代中期から40年代)に大学図書館界は国立大学図書館長会議を中心に、その実質化に向けて長く議論をおこなってきた。その後、昭和50年代以降に大学図書館界の議論の中心は「機械化-情報化」に置かれるようになり、「館長の地位」などの管理運営的要素は中心的要素から次第に外れていくこととなる。しかし、国立大学法人化等を契機として、現代では大学における管理運営の課題が再認識されている。「館長が自動的に大学の評議員となる」ことをとおして図書館の学内における総体的地位の向上が目指されていた当時の議論を振り返ることは、現代の大学ガバナンスを検討するに際しても、重要な歴史的視点を有しているといえよう。