著者
村上 學
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.1-9, 1996-07-10

親鸞の訃報を知らせてきた娘覚信尼に、恵信尼は夫の往生を自らも確信すべく「殿」親鸞が観音の化身との夢想を得ていたことを記して送る。それは俗世の言葉で語り明かすことが夢想の聖性を無化してしまうとの惧れから親鸞の生前には語り得なかったほどのことであった。だがこの書簡は覚如に利用され、聖なる化身親鸞は血脈相承を正統化する証左と化す。蓮如はそのカリスマ性を捨象して聖性の意味を転換し教義統制の基軸として据えた。