著者
村上 淳也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.164, 2016

<p>【はじめに】</p><p>一般的にCRPS(complex regional pain syndrome:複合性局所疼痛症候群)症例には循環改善や交感神経抑制を目的として,温熱療法,経皮的電気刺激,交代浴,星状神経節レーザー治療等の物理療法を併用した治療介入が挙げられる.今回,骨折とは不釣り合いな疼痛が残存したCRPS症例を担当し,物理療法を実施したが疼痛軽減に至らなかった.そこで,振動刺激を併用した治療介入を行った結果,疼痛に改善が認められたため報告する.</p><p>【方法】</p><p>症例は20代女性.車同士の交通事故により救急搬送.右距骨外側突起骨折,右腸骨翼骨折を認めたが,保存的加療適応の判断で右下肢免荷にてリハビリ開始.24病日,回復期病院へ転院.その後66病日でFWB.111病日で退院の運びとなったが,疼痛残存のため114病日に当院受診し外来リハビリ開始となった.リハビリは週4回の頻度で実施した.外来リハビリ開始時,主訴は「足をつくだけで痛くて歩けない」であった.理学所見では関節可動域制限(足関節背屈0°,底屈15°),持続性ないし不釣合いな疼痛・知覚過敏(足底,足背,下腿の触覚による疼痛NRS5/10),発汗の亢進,浮腫を認めCRPSが示唆された.またSF-MPQ2(Short Form-McGill Questionnaire2:マクギル疼痛質問表簡易版2)より心因性疼痛の寄与が少ないことが示唆された.振動刺激はハンディマッサージャー(大東電機工業株式会社製)を使用した.周波数は50Hzとし,足底に対し手を介した間接振動から開始し,徐々に直接振動へ切り替え10分間施行した.</p><p>【経過及び結果】</p><p>114病日より物理療法を併用した運動療法を開始したが,疼痛の改善は認められなかった.127病日に振動刺激を併用した治療介入を実施した.実施直後より疼痛の訴えがNRS5/10からNRS3/10と改善を認めたため,継続して施行した.135病日,触覚での疼痛がNRS2/10,足関節背屈5°,底屈30°であった.触覚への過敏性が軽減したため,積極的な神経モビライゼーション及び関節可動域練習を開始した.148病日で浮腫や発汗亢進はみられなくなり,触覚での疼痛がNRS0/10,足関節背屈15°,底屈45°と改善が認められた.疼痛と関節可動域改善に伴い10m歩行が26秒14(26歩)から8秒30(21歩)と向上した.</p><p>【考察】</p><p>本症例は距骨外側骨折とは不釣り合いな疼痛が長期に残存しており,中枢性感作が考えられた.今回,CRPSに対して一般的な物理療法では改善が認められなかった.これは本症例の疼痛として循環,交感神経の要因が少なかったことが考えられる.そこで127病日より振動刺激を併用した治療介入を開始したところ疼痛に改善が認められた.濵上は振動刺激による感覚入力を行うことで慢性疼痛や不動による障害に対しての効果を報告している.兒玉らは振動刺激による感覚運動領野との関連を報告している.今井らは一次運動野の興奮は帯状回を正常に活性化させ,中脳中心灰白質を活動させる.これにより下行性疼痛抑制によるオピオイドシステムが作動し鎮痛効果が得られると述べている.以上の機序により本症例において疼痛の改善がみられたと考える.本症例の経過より,CRPSに対して振動刺激が有効であった.今後は症例数を増やし,振動刺激が有効なCRPS症例の特異性を見つけていきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例には,本発表の主旨と倫理的配慮に関して説明し,紙面にて同意を得た.</p>