著者
吉田 正貴 稲留 彰人 村上 滋孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.307-316, 2003 (Released:2003-04-26)
参考文献数
22
被引用文献数
8

下部尿路機能は自律神経によって制御を受け,中枢,末梢において様々な神経伝達物質によりその機能を営んでいる.近年,我々は主に脳で使用されているマイクロダイアリシス法を等尺性実験に応用することにより,神経伝達物質の回収を行い,尿路平滑筋の収縮や弛緩とそれに関与する神経伝達物質(acetylcholine: ACh, noradrenaline: NA, adenosine triphosphate: ATPおよびnitric oxide: NO)の定量と薬理学的解析を行ってきており,以下の検討結果を得た.1)尿道機能を司るアドレナリン作動神経とNO作動神経は単一で作用しているのではなく,NO作動神経から放出されるNOはアドレナリン作動神経からのNAの放出量を抑制的に調節していた.また,アドレナリン作動神経より放出されたNAはNO作動神経の神経終末に存在するα1受容体を介してNOの放出を抑制的に,α2受容体を介して促進的に調節しているものと考えられた.2)ヒト膀胱において,NO作動神経から放出されるNOは直接膀胱の弛緩作用は有さないが,コリン作動性神経に作用して,AChの放出量を減少させることにより,特に蓄尿期に膀胱の弛緩や活動性の抑制に関係しているものと考えられた.3)ヒト前立腺においては,神経型NOS活性の低下によるNO放出量の低下が,加齢や前立腺肥大症に伴う下部尿路症状を有する患者でみられ,これが前立腺尿道部のダイナミックな閉塞の一因となっている可能性が推察された.4)加齢に伴いヒト膀胱収縮におけるコリンおよびプリン作動性成分の関与は変化し,ACh放出量の低下によるコリン作動性成分の減少と,ATP放出量の増加によるプリン作動性成分の増加が示唆された.これらの変化と加齢に伴う過活動膀胱や低活動膀胱との関係が示唆された.これらの検討結果は,今後病態の解明や新しい薬剤の開発に寄与するものと考えられ,我々の研究が臨床応用に繋がることを期待している.