著者
村上 瑞代 (須藤 瑞代)
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度においては、「民国初期の節婦烈女」を執筆し、辛亥革命百周年記念論文集編集委員会編『総合研究辛亥革命』(岩波書店、2012年)収録の論文として発表した。当該論文においては、民国初期において節婦烈女の道を選んだ女性たちのうち、女子学校などで教育を受けた経歴を持っていても夫への貞節を重視している、つまり少女時代には近代的価値規範に基づく女子教育を受けながらも、結婚後の貞節については旧来の価値規範を固守している事例を分析し、従来二項対立的にとらえられてきた新旧の女性のあり方が、実は整合をはかりながら受容されていたことを明らかにした。当時の女性論において節婦烈女批判が強力には行われておらず、寡婦の生き方として、節婦烈女とは異なるあり方は提示されていなかった。すなわち、近代中国におけるジェンダー改変の主なターゲットであったのは、端的に言って生殖可能性のある未婚女性から若い妻にあたる層であった。結婚後寡婦となった女性はその対象から外れていたのである。そして、褒揚条例の対象として節婦烈女が明示されなくなった1930年代になってもなお、夫や婚約者に殉死する烈婦/烈女の行為により褒揚されている女性が見られることも明らかにした。女性の貞操の重視は、夫の死後再婚しない、もしくは殉死する女性の出現を促し、政府がそれらを「節婦烈女」としてオーソライズすることによってさらに貞操重視の観念が強化されるというサイクルは長期にわたって続いてきており、条文から節婦烈女が消えても、そうした意識は根強く残っていたことを指摘した。また、上記の日本語論文をベースに英文論文("The Chaste Widows and Exemplary Daughters(Jiefu Lienu)of the Early Republic of China")も作成し、欧米の雑誌への投稿を準備している。