著者
宮川 浩一 井早 康正 村井 久雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.8, pp.1358-1364, 1989-08-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
15
被引用文献数
3

ベンゾフェノンのアニリン類との光化学反応は,その溶媒の極性など実験条件の違いにより,水素引き抜き反応によるケチルラジカルの生成,あるいは,電荷移動によるベンゾフェノンアニオンラジカルの生成,のいずれかが起こる。この論文においては,時間分解ESR法を応用し,シクロヘキサンおよびアセトニトリル中でベンゾフェノン/アニリン類にレーザー照射を行い得られた新しい知見を報告する。シクロヘキサン中においてもアセトニトリル中においても,この実験で直接観測できたのは主に中怪のケチルラジカルであった。系によっては,アニリンから水素が引き抜かれたアニリンラジカルが観測された。N,N-ジエチルアニリン/アセトニトリルを溶媒として用いた場合にのみ,間接的に電荷移動過程を示唆する結果が得られた。特に重要な点は,この実験により,第二級アミンであるN-メチルアニリン,N-エチルアニリン,さらに第一級アミンであるアニリンにおいては,N-H結合部から水素原子がより速く引き抜かれていることが明らかとなった点である。すべての実験を通して得ちれたCIDEP信号は若干非対称な全発光型で,このことはベンゾフェノン三重項状態によるTMスピン分極(全発光)に,RPMによるスピン分極が発光ノ吸収として重なっているものと結論付けられた。