- 著者
-
村山 憲永
- 出版者
- 日本大腸肛門病学会
- 雑誌
- 日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.3, pp.408-418, 1990 (Released:2009-10-16)
- 参考文献数
- 32
直腸癌に対する括約筋温存術式の適応を拡大する目的で1978年1月より括約筋温存直腸切除術の1つである腹仙骨式直腸切除術を採用し, 直腸癌34例に本術式を施行した.直腸癌症例の大部分は下部直腸癌であり, 手術死亡は1例も認めなかった.本術式を改良することにより, 歯状線部での一次的結腸肛門管吻合が可能となった.本術式の手術時間は直腸切断術, 前方切除術の手術時間より有意に長かったが, 出血量には有意差は認められなかった.本術式の術後肛門機能は臨床的にも, 直腸肛門内圧検査的にも, 前方切除術の術後とほぼ同様であり, 貫通術式の術後と比較して, はるかに良好であると考えられた.直腸癌に対する本術式の遠隔成績については, いまだ症例数, 経過年数ともに少なく, 結論的なことは言えないが, 術後5年以上経過した症例における局所再発率は10%であり, 他の括約筋温存術式と比較して遜色はなく, ほぼ満足すべき結果であった.肛門挙筋, 肛門管への腫瘍の直接浸潤が認められず, それらを温存しても根治性が得られると考えられた下部直腸癌症例において, 前方切除術が施行困難な場合に腹.仙骨式直腸切除術は選択されるべき術式の1つであると思われた.