著者
藤田 昌久 石川 文彦 釜田 茂幸 山田 千寿
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.486-489, 2015 (Released:2015-06-30)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

経肛門的直腸内異物の大部分は自慰行為や性的行為により生じるが,異物は多種多様である.今回,われわれは,経肛門的に直腸内に挿入された巨大なシリコン製玩具に対して,ミオームボーラーを用いて経肛門的に摘出した症例を経験した.症例は34歳男性.自慰行為にて肛門よりシリコン製玩具を挿入,摘出できなくなり当科を受診した.外来で無麻酔下には摘出できず,全身麻酔下に摘出を行った.各種鉗子では異物を把持,牽引できなかったがミオームボーラーを異物に刺入することで安全に摘出することができた.異物は円錐状で,大きさは30×10cmと巨大であった.異物の形状や材質により摘出の工夫が必要であるが,シリコン製玩具に対してはミオームボーラーが有用である.
著者
横井 英人 長谷川 誠司 和田 朋子 菅原 裕子 渡辺 卓央 池 秀之 福島 忠男
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.543-548, 2017 (Released:2017-07-24)
参考文献数
16
被引用文献数
1

自慰目的に挿肛したハンドグリッパーが直腸穿通をきたし,開腹手術を必要とした1例を報告する.症例は39歳男性,握力トレーニング用のハンドグリッパーを自慰目的に肛門より挿入し抜去ができなくなった.20日ほど経過し臀部痛を主訴に当院救急外来に受診した.腹部CTで片方のグリップが直腸穿通していたため経肛門的摘出は不可能と判断し,緊急開腹手術(Hartmann手術)を施行しハンドグリッパーを摘出した.術後経過は良好で第10病日に退院した.直腸異物の摘出法に関しては,一定の見解は今のところなく,全身状態,異物の大きさ,形状,材質,肛門・直腸外傷や,消化管穿孔の有無を考慮し,慎重に検討する.
著者
小川 仁 舟山 裕士 福島 浩平 柴田 近 高橋 賢一 長尾 宗紀 羽根田 祥 渡辺 和宏 工藤 克昌 佐々木 巌
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.455-459, 2004 (Released:2009-06-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

症例は23歳女性.5年前にスプレー缶の蓋を膣内に留置してしまったが医療機関を受診せず放置し,次第に月経周期に類似した下血と腰痛が出現したため近医を受診した.大腸内視鏡検査で膣内異物と直腸膣瘻を指摘され経肛門的に異物除去術が施行されたが,2カ月後も瘻孔が閉鎖しないため当科を紹介された.初診時2横指大の直腸膣瘻と膣狭窄を認めた.回腸にループ式人工肛門が増設されたが6カ月後も瘻孔は閉鎖せず,根治目的に手術が施行された.瘻孔周辺の直腸と膣は高度の線維化により強固に癒着しており直腸・膣の修復は不可能であったため,再手術により子宮摘出・直腸切除,結腸肛門吻合術が施行された.3年2カ月の間にこれらの手術を含む計6回の手術が行われ直腸膣瘻は根治した.膣内異物による直腸膣瘻はまれな病態であるが,治療に難渋した自験例を若干の文献的考察を加え報告する.
著者
西森 武雄 金 友英
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.163-168, 2010 (Released:2010-03-05)
参考文献数
12

経肛門的直腸異物は自慰行為などにより突発的に生じることが多い.われわれは経肛門的直腸異物の3例を経験したので,報告する.症例1は59歳,男性.ゴム製の棒を自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,腰椎麻酔下に砕石位とし,腹部を愛護的に圧迫することにより,異物を把持でき,経肛門的に摘出した.症例2は65歳,男性.化粧水の容器を自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,症例1と同様の方法で経肛門的に摘出した.症例3は43歳,男性.コルク製のボールを自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,腰椎麻酔下に経肛門的に摘出した.腰椎麻酔下では肛門括約筋の弛緩が得られ,用手肛門的に摘出可能となることがあり,試みられるべき治療法の1つであると思われた.
著者
中島 紳太郎 高尾 良彦 宇野 能子 藤田 明彦 諏訪 勝仁 岡本 友好 小川 雅彰 大塚 幸喜 柏木 秀幸 矢永 勝彦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.414-422, 2011 (Released:2011-06-02)
参考文献数
20

症例は24歳女性でジェットスキーから転落し,外傷性ショックの状態で他院救急搬送となった.直腸膀胱腟壁損傷と診断され,損傷部の可及的な縫合閉鎖,ドレナージおよびS状結腸人工肛門造設術が施行された.膀胱機能は改善したものの括約筋断裂によって肛門機能は廃絶状態となり,受傷から3カ月後に当院紹介となった.排便造影で安静時に粘性造影剤の直腸内保持は不可能で完全便失禁であった.しかし恥骨直腸筋のわずかな動きと筋電図で断裂した括約筋の一部に収縮波を認めたため括約筋訓練を行った.2カ月後に最大随意圧の上昇を確認,また造影剤の直腸内保持が短時間ではあるが可能であり,恥骨直腸筋の収縮と超音波で断裂部の瘢痕組織への置換が確認された.受傷から6カ月後に瘢痕組織を用いた括約筋前方形成術,9カ月後に括約筋後方形成術と括約筋人工靭帯形成術を実施した.受傷から17カ月後に人工肛門を閉鎖し,便失禁もみられず経過は順調である.
著者
高見 友也 山口 智之 畑野 光太郎 冨田 雅史
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.86-90, 2018 (Released:2018-01-29)
参考文献数
32
被引用文献数
1 2

経肛門的直腸異物は,性的嗜好などが原因で肛門より異物を挿入し抜去困難となったものである.当院では2008年4月~2017年3月までに8例を経験した.平均年齢は42.6歳(12~64歳),すべて男性であった.異物の種類は,ペンライト1例,性的玩具2例,プラスチックの筒3例,スプレー缶1例,綿棒1例であった.摘出方法は,経肛門的摘出が5例,内視鏡的摘出が2例,自然排泄が1例であった.摘出時の麻酔法は,無麻酔が4例,腰椎麻酔が2例,全身麻酔が1例であった.合併症は粘膜の裂傷が2例で認められたが,両者とも保存的に経過観察が可能であった.今回われわれが当院で経験した8例に加えて,本邦での報告例について検討を行った.
著者
須田 和義 川崎 俊一 本橋 行 後藤 悦久
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.31-34, 2017 (Released:2016-12-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2

80歳以上の高齢者にも経肛門的直腸異物症例は存在するが,本例は従来報告の中でも性的動機では最高齢になる.また,女性体型をかたどったペットボトルという特徴的な異物であり,無麻酔下用手経肛門的に摘出できた1例である.症例は85歳男性で,『香水の瓶』が取り出せないという主訴で来院した.指診上,肛門縁約10cmで異物端を触知し,直腸鏡,画像とから,中間部がくびれた形状で,内容物を有した容器様の異物が開口部を下にして骨盤内に認められた.側臥位にて腹部圧迫し,直腸内の示指で異物端を適切な方向に向けつつ,異物を肛門側に押し進め,摘出することができた.異物は,約20×7cmのペットボトルで女性のボディラインを再現した形状で,そのくびれはウエストに模した部分であった.今後も常習性の高齢者症例は増加する可能性がある.リスク教示のみならず,安全な使用を是認せざるを得ない場合もありうる.
著者
向井 洋介 賀川 義規 木村 慶 向坂 英樹 加藤 健志
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.173-177, 2015 (Released:2015-02-27)
参考文献数
35
被引用文献数
1

症例は80代,女性.直腸脱の既往があり,1年前に当科にて修復術を施行されたが術後早期より再発を認め経過観察されていた.今回,自宅トイレにて急激な腹痛と会陰部より腸管脱出認め救急搬送となった.来院時身体所見でも会陰部より腸管脱出を認め,直腸診にて直腸脱穿孔部からの腸管脱出と診断した.脱出した小腸は会陰部の疼痛が激しく徒手整復は困難であったため手術の方針となった.術式は単孔式腹腔鏡下直腸切断術,S状結腸人工肛門造設術を行った.術後経過は良好で術後27日目に独歩にて退院となった.会陰部からの小腸脱出の報告は直腸脱や子宮脱を既往のある症例が半数を占め,本症例においても慢性的な直腸脱の既往があり菲薄化した直腸前壁に温水洗浄便座のノズルが刺さり穿孔をきたしたものと受傷起点から考えられた.これまで温水洗浄便座のノズルによって大腸穿孔をきたした症例は世界でも報告されておらず,非常に稀な病態と考えられた.
著者
種村 宏之 後藤 友彦 高塚 純 中崎 晴弘 寺本 龍生
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.91-95, 2006-02-01
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

結核性痔瘻は稀とされている.我々は1985年から2003年までの18年間に痔瘻の膿から結核菌が証明されたll例を経験したので,これを報告する.平均年齢は43.8歳でいずれの症例も男性であった.全例結核治療のため当院紹介された.痔瘻はIILSが10例,IIIBが1例であり,6~7時方向の痔瘻が7例,2~3時方向が3例,11時方向が1例であった.結核性の粘膜病変を認めなかったことから,いずれの症例も以前からある痔瘻に結核菌が2次感染をおこしたものと考えられた。結核治療を開始し,排菌が停止したことを確認したのち根治術を行った.現在までのところ再発を認めていない.
著者
樽見 研 石山 勇司 川村 麻衣子 石山元 太郎 西尾 昭彦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.883-886, 2011 (Released:2011-11-02)
参考文献数
4
被引用文献数
1

慢性裂肛の治療について我々の施設で施行している用手肛門拡張術を中心に述べた.用手肛門拡張術は麻酔下で手指を肛門内に挿入して肛門を拡張する方法であるが,その長所は手技が簡単で創を作らないことであり,侵襲が少ないため外来手術にも適している. 我々の施設では2010年の1年間に170例の裂肛に対して用手肛門拡張術を施行し,有効率は90.6%であった.合併症は3.5%発生したが,いずれも軽度であり保存的治療で改善した.手技は術者の感覚によるところが大きいが,愛護的に行えば安全性が高く,肛門内圧の高緊張状態を速やかに改善するので適応範囲も広く,保存的治療に抵抗する慢性裂肛に対して第1選択になり得る方法と考えられる.
著者
加川 隆三郎 斎藤 徹 宮岡 哲郎 黒川 彰夫 有竹 賀子 吉川 宣輝 西庄 勇 岩田 辰吾 竹林 正孝
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.505-512, 1998 (Released:2009-06-05)
参考文献数
25
被引用文献数
9 2

ヒトパピローマウイルス(HPV)は,子宮頚癌をはじめ各種扁平上皮癌組織にそのDNAが検出され,HPV感染による発癌機構の解明が進みつつある,諸外国では肛門管,直腸の扁平上皮癌にHPV-DNAを確認した報告がみられるが,本邦ではほとんどない。今回,HPV-DNAの検出に最も感度が高く,また型の同定も可能なPCR法により,日本人の肛門管,大腸の扁平上皮癌発癌におけるHPVの関与を研究した,方法:肛門管扁平上皮癌18例,その他の肛門管癌5例および大腸扁平上皮癌3例のパラフィン包埋標本より得られた検体のDNAをPCR法にて増幅,制限酵素にて処理後,消化パターンにより型判定をおこないHPV6,11,16,18,31,33,42,52,58について検討した.また肛門管扁平上皮癌症例で,HPV,p53に対する免疫組織化学的検討を行った.結果:肛門管扁平上皮癌症例のうち3例からHPV16,1例からHPV6のDNAが検出され,HPVによる発癌が示唆された。免疫染色では扁平上皮癌細胞の核が染色され,癌細胞核内のHPVの存在,mutantp53の蓄積が示された.欧米の成績と比較してHPVの種類には差はないものの,検出頻度は低かった.しかし,日本人の性習慣の変貌にともない,肛門管の扁平上皮癌の感染実態の変化が予想された。
著者
間遠 一成 潮 真也 万本 潤 間崎 武郎 石井 敬基 増田 英樹 高山 忠利
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.339-341, 2008 (Released:2008-10-02)
参考文献数
5
被引用文献数
4 2

直腸異物は,性的嗜好や事故により肛門から器具などが挿入され,抜去不可能となったものである.近年普及したPET(Polyethylene terephthalate)ボトルを挿入した症例に対する,安全な経肛門的摘出術の工夫を紹介する. 症例は61歳男性.入浴中に胴部で切断したPETボトルの上に尻餅をつき,異物が肛門から挿入された.用手的,内視鏡的には摘出困難で,腰椎麻酔下に摘出を試みたが,胴部で切断されたPETボトルの切断面は直腸粘膜に食込み,摘出困難であった.そこで胴部に2∼3cmの間隔で割を数本入れ,胴部を内側に折り畳むことで円錐状に形成したところ滑らかに摘出できた.異物は直径5cm,長さ6.7cmであり,合併症は認めなかった. 治療は一般的に内視鏡や経肛門的摘出術だが,難渋する場合も少なくない.我々の検索する限り,PETボトルによる直腸異物の報告はこれが初めてである.
著者
小林 望 関口 正宇 斎藤 豊
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.417-423, 2022 (Released:2022-10-28)
参考文献数
15

COVID-19パンデミックにより,がん検診は世界的に停滞した.わが国においても第1回緊急事態宣言の発令に合わせて多くの施設でがん検診が中断され,受診者数は1~2割程度減少したとされているが,正確な数字は把握できていない.一方海外では,元々検診受診者の情報が個別に管理されており,パンデミック下での受診者数の減少や精密検査のキャパシティー低下などのデータを迅速かつ正確に把握し,それをシミュレーションモデルを用いて解析することによって,根拠のある対応策を打ち出している.2020年の院内がん登録の集計結果からも,検診で発見された大腸がん患者数は減少しており,また発見がんも早期の割合が減少していた.このことが長期的にどのような影響を及ぼすのか,それを防ぐにはどのような対策を講じるべきなのかを議論する上で,国レベルで全国民のデータ集積を行う体制作りが急務である.
著者
辻 順行 高野 正博 久保田 至 河野 洋一 徳嶺 章夫 嘉村 好嶺
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.993-1001, 1994 (Released:2009-06-05)
参考文献数
20

1992年6月より1992年9月までに,高野病院で経肛門的超音波検査によりcystic patternとして描出される肛門周囲膿瘍17例とmixed echoic patternとして描出される肛門周囲膿瘍5例を通じて以下の結果を得た。(1)視診,触診にて肛門周囲膿瘍と診断された症例に対して,経肛門的超音波検査を施行し,cystic patternとして描出される症例とmixed echoic patternとして描出される症例とに分けられた.前者は急性期を示し,排膿されるまでは周囲の脆弱部へ進展していく傾向が強いため,早期発見,早期外科的治療が重要で,抗生剤単独の治療は有効でなかった。それに対し,後者は排膿後に描出され,抗生剤による治療も可能であると考えられた。つまり経肛門的超音波検査により,より細かい肛門周囲膿瘍の病期の診断と治療法の判定が可能であった。
著者
西森 武雄 金 友英
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.163-168, 2010-03-01

経肛門的直腸異物は自慰行為などにより突発的に生じることが多い.われわれは経肛門的直腸異物の3例を経験したので,報告する.症例1は59歳,男性.ゴム製の棒を自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,腰椎麻酔下に砕石位とし,腹部を愛護的に圧迫することにより,異物を把持でき,経肛門的に摘出した.症例2は65歳,男性.化粧水の容器を自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,症例1と同様の方法で経肛門的に摘出した.症例3は43歳,男性.コルク製のボールを自ら肛門より挿入し抜去不可となり,当院を受診した.外来での抜去は困難で,腰椎麻酔下に経肛門的に摘出した.腰椎麻酔下では肛門括約筋の弛緩が得られ,用手肛門的に摘出可能となることがあり,試みられるべき治療法の1つであると思われた.<br>
著者
三浦 誠司 西岡 道人 野澤 慶次郎 藤田 正信 青木 久恭 和田 浩明 捨田利 外茂夫 三重野 寛治 小平 進
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.18-23, 1998-01
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

22歳,男性.主訴は入工膣からのガス・便の排出.1年10か月前に海外で膣造設術を含む性転換手術を受けている.造影および内視鏡検査では瘻孔は高位にあり,直腸膣中隔の膣側上皮は広汎に欠損していた.手術は経仙骨的アプローチで施行し,直視下に瘻孔を切除して層々に縫合閉鎖した.術後3年以上経過した現在,再発はない,本症例は腹部や大腿部に創痕が残るような術式を拒んだため,瘻孔を閉鎖できたが,膣を安全に使用できるような術式ではなかった.男性性転換手術者に発生する直腸膣瘻の治療は困難で,その理由として発生原因が人工膣の萎縮防止用ステントを長期間使用したための圧迫壊死であること,および造膣手術時に広範囲に剥離が行われていて周囲組織を瘻孔閉鎖手術時の修復に利用できないことなどがあげられている.欧米の報告では本症の発生率は低いが,観察期間が短いものが多いことから過小評価されている可能性が考えられる.
著者
吉本 裕紀 石橋 慶章 古賀 史記 室屋 大輔 宗 祐人 森光 洋介
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.8, pp.502-508, 2021 (Released:2021-07-29)
参考文献数
14

症例は70歳代の男性,左水腎症にて他院外来通院中であったが,背部痛が増悪し当院紹介受診となった.精査の結果,S状結腸癌,転移性肝腫瘍(外側区域),原発性左尿管腫瘍の診断となった.S状結腸癌の狭窄が切迫していたため,肝切除は二期的に行うこととし,まず後腹膜鏡下左腎・尿管切除術および腹腔鏡下高位前方切除術(D3)を施行した.術後経過良好で術後第13病日に退院となった.術後の病理所見で,尿管癌は原発性ではなく大腸癌からの転移性腫瘍と診断された.術後のCT検査で切除した左腎付近に腫大したリンパ節があり,転移・遺残が否定できなかったためPET-CTを施行したところS4-5レベルに仙骨骨転移を認めた.転移性尿管腫瘍は高率に遠隔転移を伴い予後不良であるため,集学的治療目的に当院がん治療センター紹介となり現在加療中である.
著者
福永 真衣 石村 典久 石原 俊治
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.572-580, 2021 (Released:2021-11-29)
参考文献数
48
被引用文献数
1

セリアック病は小麦などに含まれるグルテンにより惹起される自己免疫疾患であり,十二指腸や空腸を中心とした慢性炎症により,腹痛,下痢といった消化器症状のみならず,抑うつなどの多彩な症状を呈する.欧米諸国では有病率が1%程度とされるが,日本を含むアジア諸国では極めて稀と考えられており,疫学調査はほとんど行われていなかった.われわれは健常成人を対象に調査を行い,日本人における有病率は0.05%程度である可能性を示した.セリアック病の発症にはHLA-DQ2, 8といった遺伝的要因と,小麦の摂取量などの環境要因が影響している.診断は抗組織トランスグルタミナーゼIgA抗体(tTG抗体)測定および十二指腸生検による組織学的評価により行われ,基本的な治療はグルテン除去食である.小麦摂取量の増加を背景に今後日本においても増加する可能性があり,注目すべき疾患である.
著者
味村 俊樹
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.928-939, 2015 (Released:2015-10-31)
参考文献数
56
被引用文献数
1

便失禁の適切な診断・治療には,ガイドラインなどによる診療の標準化が重要で,それは国際標準に準拠した高い信頼性が求められる.国際失禁会議(International Consultation on Incontinence,ICI)は,尿・便失禁に関する国際的なコンセンサスミーティングで,1998年以来3~4年に1度開催されている.本邦独自の便失禁診療ガイドライン作成に際して,ICIのガイドラインを参考にするのは有意義であり,本稿では2012年にパリで開催された第5回ICIによる最新の便失禁診療ガイドラインを紹介する.しかし前回会議から既に3年が経過し,新たなエビデンスによって推奨度を変更すべき検査や治療法もある.最近,米国結腸直腸外科学会(ASCRS)が最新のエビデンスに基づいた便失禁に対する診療ガイドラインを発表したので,ICIによる推奨度に加えてASCRSによる推奨度も併記する.