著者
村瀨 陸
出版者
奈良市教育委員会文化財課埋蔵文化財調査センター
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

本研究は、近世鋳造技術の解明に繋がる近世刀装具鋳型の製作技法を明らかにすることを目的とした。これを達成するためには、まず鋳型がどのようなものであるのかを把握し、かつ第三者に図示する必要があった。これを成し得る方法としてSfMによる三次元計測が有効であると考え実験した。その結果、肉眼観察では確認できない細部の特徴を抽出することに成功し、基礎資料として提示することもできた。次にSfMによる計測で得られた基礎データをもとに、奈良町遺跡出土近世刀装具鋳型の製作技法を検討した。その結果、込型技法による鋳造を行ったとみられる痕跡を確認し、それによる鋳造工程の復元を行った。ただし、これはあくまで本研究で対象とした奈良町遺跡(HJ第688次)出土資料から得た結果であり、近世における刀装具の鋳造方法が全て込型技法であるとは言えない。この点は今後分析を継続し明らかにすべき課題である。また、本研究ではSfMを用いた計測により多くの情報を得ることができたが、この方法が埋蔵文化財行政において、どういった場合に有効であるのかを検討した。その結果、全ての資料に対して有効であるものではないことを前提としつつ、従来自分の手で図化することが困難であった大型資料や、本研究で対象としたような複雑な構造をもつ資料などを自らの手で表現することができる方法であることを明らかにした。これらの資料は委託による図化がこれまで行われてきたことや、そもそも図化を断念する場合も多くあったため、研究が進んでいない資料が多数ある。こういった資料に対して、研究者自身の手で第三者に図示する方法を得たことは、今後の研究に大きく影響を与えるものと考える。以上をふまえて、埋蔵文化財行政における実現可能な三次元計測の導入についてを検討した。