著者
稲川 裕之 河内 千恵 杣 源一郎
出版者
日本補完代替医療学会
雑誌
日本補完代替医療学会誌 (ISSN:13487922)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.79-90, 2007 (Released:2007-07-19)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1 1

我々は種々の臓器・器官に分布する組織マクロファージがネットワークを形成し,生体の恒常性維持に深く関与していると考え,この仮想的な制御機構を『マクロファージネットワーク』と名づけた.そこでマクロファージ活性化はマクロファージネットワーク自体を活性化して健康維持や疾病予防に繋がると考えている.これを実証するべく,長い食経験のある食品から,マクロファージ活性化物質をスクリーニングし,小麦共生グラム陰性菌由来の LPS (IP-PA1) を見出した. ところで LPS は強力なマクロファージ活性化作用を持つことが良く知られているが,脈管に投与される医薬品では有害物質であるとの認識が優先したため,免疫賦活素材として活用は考えられてこなかった.一方,LPS の免疫賦活活性に深く関わる TLR-4 経由のシグナル伝達は恒常性を維持する上で重要な制御機構であることが報告され,LPS の生体恒常性制御の意義が急速に認識されつつある. しかし,LPS や LPS を含む素材の免疫賦活作用を社会的有用性につなげるためには,個体に特有とされる健康維持機構の実態解明などの基礎研究,LPS の生理的意義の見直し等リテラシーの形成を促進すること,LPS の有用性の科学的実証の蓄積,が不可欠である.このためには,異分野・異業種からなる組織体制の整備が必要と考える. そこで,我々は,産官学連携により自主研究会,さらにヒトによる実証調査や食品等に含まれる LPS の質・量あるいは免疫賦活効果などの評価機能を有する NPO 法人,技術移転を行うとともに各種 LPS を機能性素材として開発し販売する大学発ベンチャーを設立し,行政からの支援を受け LPS 有用性の確立に取り組んでいる.本稿では,我々のコンセプトと新素材としての食経験を持つグラム陰性菌素材の開発の経緯について紹介する.