著者
七沢 潔 東山 浩太 高橋 浩一郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.24-60, 2021 (Released:2021-04-16)

本稿第1部で新型コロナウイルスに関するテレビ報道とソーシャルメディアの連関を検証する中で、「PCR検査」についてテレビは長期間、繰り返し扱い、またTwitterなどの反応も大きかったことが分かった。第2部ではその「PCR検査報道」にテレビによる「議題設定」機能が発動されたと仮定し、それがどのように立ち上がり、展開し、成果を生んだかを放送された番組群の内容分析と、それに反応するTwitterの投稿の分析から検証した。国内での感染が進む2月、PCR検査を受けたくても受けられないケースを伝えるテレビ報道が集中し、「検査拡充」という「議題」が設定された。そしてTwitterにも投稿が相次いだ。しかし3月になると逆に「医療崩壊」を恐れて検査拡充に反対の「世論」が現れ、緊急事態宣言下の4,5月に「議題」は後景化する。そして「第2波」が始まる6、7月には「無症状者への検査」という新たな枠組みで議論が再燃するなど、動態が見えた。
著者
東山 浩太
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.22-45, 2021 (Released:2022-01-20)

報道が社会(政策)に影響を及ぼしたと言われるとき、どのようなメカニズムが働くのか。本稿では特定の事例についての報道を分析することで、この問いを明らかにしようと試みた。分析には「メディア・フレーム(認識枠組み)」や「アジェンダ構築モデル」といった先行研究の知見を参照した。 事例はコロナ禍における医療従事者、特に「無給医」と呼ばれる人たちをめぐる報道である。無給医とは、大学病院で過重な診療にあたっているにもかかわらず、給与が支払われないなど、十分な処遇がなされない若手の医師たちを指す。重要な働きを担うのに目立たない存在だ。 2020年4月、コロナ禍で医療がひっ迫する中、無給医は安全や給与が保障されないままコロナ診療に従事させられることになった。こうした事実を掴み、複数のテレビ番組が彼らの窮状を取り上げた。すると、政策当局が迅速に無給医に関する処遇の修正に動いたことがわかった。それらの番組を検証すると、「医療維持のため大切なはずの医療従事者の中に、大切に扱われているとは言えない無給医がいる。手当てが必要ではないか」とのメディア・フレームを共有していたと言えた。 さらにコロナ禍の時期をはじめ,無給医の処遇問題に関する報道を過去に遡って調べると、報道の力が束となって当局に働きかけ、無給医の処遇が(十分ではないが)徐々に改善されつつあることもわかった。現在、給与不払いは違法と認められるまでになった。これらの分析を通じて、大まかに次のようなメカニズムで報道が社会(政策)に影響を与えている可能性が見いだせた。 ①複数のメディアが争点についてフレームを共有→②集中的に報道が生じる→③それらが政策当局に政策の正当性を問いかけ、改変を働きかける、というものである。