著者
大竹 晶子 高橋 浩一郎 七沢 潔 濵田 考弘 原 由美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.2-38, 2022 (Released:2022-04-20)

2021年夏、東京に4度目の緊急事態宣言が出される中、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、時を同じくして新型コロナウイルスの第5波が到来した。4年に1度の国際スポーツ大会の開催と同時に、同じ国内で医療崩壊が起こるという想像しがたい事態と、そこに至る過程を、テレビはどのように報道したのか。番組メタデータに基づく量的分析と、開催前、開催直後、感染爆発期の3つの時点の番組視聴に基づく質的分析により検証した。 その結果、会期中のテレビの新型コロナ報道が、ニュースの時間配分量、報道スタンス、テレビが本来果たすべき機能など、さまざまな面において東京オリンピック・パラリンピックの影響を受けていたことがわかった。
著者
七沢 潔 東山 浩太 高橋 浩一郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.24-60, 2021 (Released:2021-04-16)

本稿第1部で新型コロナウイルスに関するテレビ報道とソーシャルメディアの連関を検証する中で、「PCR検査」についてテレビは長期間、繰り返し扱い、またTwitterなどの反応も大きかったことが分かった。第2部ではその「PCR検査報道」にテレビによる「議題設定」機能が発動されたと仮定し、それがどのように立ち上がり、展開し、成果を生んだかを放送された番組群の内容分析と、それに反応するTwitterの投稿の分析から検証した。国内での感染が進む2月、PCR検査を受けたくても受けられないケースを伝えるテレビ報道が集中し、「検査拡充」という「議題」が設定された。そしてTwitterにも投稿が相次いだ。しかし3月になると逆に「医療崩壊」を恐れて検査拡充に反対の「世論」が現れ、緊急事態宣言下の4,5月に「議題」は後景化する。そして「第2波」が始まる6、7月には「無症状者への検査」という新たな枠組みで議論が再燃するなど、動態が見えた。
著者
今中 哲二 川野 徳幸 竹峰 誠一郎 進藤 眞人 鈴木 真奈美 真下 俊樹 平林 今日子 高橋 博子 振津 かつみ 木村 真三 七沢 潔 玉山 ともよ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

代表者の今中は以前よりチェルノブイリ原発事故の調査を行ってきた。福島原発事故の長期的問題を考えるため、広島・長崎原爆被害やセミパラチンスク核実験被害の調査を行っている川野徳幸、マーシャル諸島での核実験被害調査を行っている竹峰誠一郎らとともに、原子力開発がはじまって以来世界中で発生した様々な核災害の後始末について調査を行った。核災害は、放射線被曝や放射能汚染といった問題にとどまらず、社会的に幅広い被害をもたらしており、その多くは災害が起きてから50年以上たっても解決されないことが示された。得られた成果は2017年11月12日に東京で開催した報告会で発表し、12編の報告を含むレポートにまとめた。
著者
七沢 潔
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.28-53, 2021 (Released:2021-11-20)

福島第一原発の事故から10年がたった今年、NHKと民放各局が放送した関連のドキュメンタリー番組40本を視聴し、6つに分類して内容分析した。「事故処理」では「廃炉」の期限が見えないこと、「除染」の費用の膨張とその原因が明かされた。また放射線による被ばくの影響など「健康被害」が見えにくくなる中で、「震災関連死」に際して遺族が提出する「死亡経緯書」を拠り所に被災の影響による死を見つめる番組があった。「復興」については避難指示が解除された町の人間模様を多様な目線から見つめる番組が多く、「戻った人」と「戻らない人」の対話も試みられた。「子どもたちの心」を追う中では、これまで言葉にできなかった思いを言葉にする試行がなされた。また制作者が自ら登場して故郷を訪ねたり、自身が10年前被災した頃の思いを伝える番組もあり、事故の「風化」につながる「他人事」化を乗り越えようと、「自分事」としての語りが試みられていた。その一方で避難指示区域外からの「自主避難者」の厳しい状況を伝える番組や、メディアも含めて事故の教訓が生かされているか否かを検証する番組は少なく、テレビ報道のバランスの偏りも感じられた。
著者
七沢 潔 原 由美子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.42-70, 2018

2017年、NHK放送文化研究所は北米の4つの大学でNHKのアーカイブ番組を使った実験授業を行った。対象はアメリカのプリンストン大学、ハーバード大学、ダートマス大学、カナダのトロント大学の学生136名。「東京大空襲」「満州国」「アメリカの日系人部隊」など戦争に関係した番組や、「サラリーマンのランチタイム」や「東京多国籍街の八百屋」など日本の現在の生活や風俗を伝える番組、「サイボーグ型ロボット開発者」の人間ドキュメントなどが、学生と教員にだけ限定的にネット配信され、学生たちはそれを事前に視聴して授業に臨み、教員のリードで活発な議論が行われた。その結果、少なくとも3つの目的でNHKの番組がアメリカの大学でテキストとして待望されていることがわかった。 1)日本について学ぶことに役立つ 2)日本語学習に役立つ 3)世界共通の社会問題の理解に役立つ 当初日本を研究する知日派の大学教員の授業に役立てば、との観点で始めた実験授業だが、2)、3)のようなより幅の広いニーズの存在に気づかされ、NHK番組の国際発信を活性化する端緒となる可能性も見えた。実験授業の概容を、視察結果を中心に学生のアンケート調査結果を交えて報告し、番組の教育用配信の事業化の現在と未来についても考える。
著者
七沢 潔 Nanasawa Kiyoshi
出版者
法政大学サステイナビリティ研究所
雑誌
サステイナビリティ研究 (ISSN:2185260X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.71-89, 2015-03

Four years have passed after Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant (NNP) accident, now people seems to lose their interests in the situation, as if they met "the half-life of memory." A number of TV documentary programs featuring the accident has decreased from 166 in 2011 to 109 in 2013. This study examines the pressures from the authorities upon journalists which eventually lead the public indifference by illustrating four cases of media coverages on issues: (1) radiation contamination, (2) "voluntary evacuees", (3) effects on people and (4) investigation on the accident. The first case reports that three staffs were warned by NHK after participating in NHK's documentary series "Collaborating to create a radioactive fallout contamination map," and an argument over the series by the NHK management committee. The second case shows that "voluntary evacuees" from Fukushima is not much featured on TV since it is against the government's policy. Third, this report analyzes a case which a group of nuclear energy scientists and technicians submitted a protest to Chairman of NHK regarding a TV program on low level radiation effects. Fourth, a case of Asahi Shimbun's "Yoshida Transcripts," the journalists severely criticized and the article over the transcripts has been retracted. In conclusion, the author emphasize the necessity of sustainable efforts to keep society's memory of Fukushima nuclear accident despite the headwind towards journalism. 福島第一原発事故から4年が経ち、人々の事故への意識は「記憶の半減期」を迎えている。メディアの報道姿勢にもそれが顕れ、2011年度には166本あった原発事故関連のテレビのドキュメンタリー番組が2013年度は約3分の2の109本に減少した。本稿では急速な意識の風化の背後にある権力による直接的、間接的「操作」の事例を(1)放射能汚染、(2)「自主避難」、(3)人体への影響、(4)事故プロセスの検証、をテーマとしたテレビ、新聞の報道を中心に検証した。(1)では『ETV 特集 ネットワークでつくる放射能汚染地図』のシリーズ6本目放送後に1年9カ月の「空白」があった背景として番組スタッフが NHK から「厳重注意」となったこと、NHK 経営委員会であった番組をめぐる議論を紹介。(2)については「自主避難」が「国の方針に背く行為」であるからか全国放送の番組化がほとんどなされなかった事実をあげ、(3)については原子力科学者・技術者が連名でNHK会長に送った『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』(2011年12月28日放送)への抗議の手紙を事例に、「避難者の帰還」を目指す国の政策に批判的な報道への圧力を分析、子どもの甲状腺ガンが増えている事実をテレビが番組化しようとしなかった背景を明かした。(4)では、「吉田調書」のスクープをした朝日新聞の記者たちが「記事取り消し」の汚名を着せられた事例を分析、原発報道に吹く政治的な逆風とそれに負けない粘り強い報道が必要であることを指摘した。