著者
東馬場 郁生
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.1-22, 2007-06-30

一九八○年代以降、北米宗教学界を中心に展開した還元論争は、一学術分野としての在り方が依然不透明な宗教研究について、その理論と方法の特徴を精査するうえで貴重な議論であった。還元論争は、M・エリアーデの方法論的主張に対する社会科学系宗教研究者からの反駁として始まり、やがて、宗教現象とその研究方法の独自性を主張する非還元主義と、その立場をとらない還元主義との対立という構図を生んだ。本稿では、還元論争の展開を批判的に検討する。まず、論争のきっかけとなったエリアーデの非還元的主張を確認した後、還元主義からの反論の要旨と問題点をR・シーガルを中心にまとめる。そして、還元論争の重要な結論である、非還元主義的立場もひとつの還元主義とする論理を整理する。最後に、還元論争が残した課題として、宗教研究における還元と信仰者の立場との関係について新たな方法論的問題を提起する。