著者
松下 哲朗 宿輸 昌宏 大村 浩之 原口 増穂 浅井 貞宏 波多 史朗 山佐 稔彦 宮原 嘉之
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.163-168, 1996-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
14

再燃寛解型の潰瘍性大腸炎に急性肺動脈血栓塞栓症を合併し, t - P A による血栓溶解療法が有効でった1例を経験した.症例は66歳,女性.再燃寛解型の潰瘍性大腸炎で,プレドニゾロン15mg/日の維持投与中,労作時の息切れと失神を主訴に受診した.動脈血ガス分析で,PaO2,45torr,PaCO2 25torrと低酸素血症を認めた.心エコー検査では,著明な右室の拡大と左室の変形がみられた.右心カテーテル検査にて肺動脈圧は65/30(41)mmHg,DSAによる肺動脈造影(以下DS-PAG)では肺葉動脈に多発性血栓を認めたため,急性肺動脈血栓塞栓症と診断した.診断後,肺動脈から選択的にt-PA600万単位を30分かけて注入した.その後,貧血の進行や便潜血反応,肺動脈圧,心エコー所見を参考にしてt-PA600万単位を肺動脈から3日間注入し,DS-PAGを施行した.DS-PAGで,両下肺動脈に血栓の残存はあったが血流は保たれていたため,ヘパリンによる抗凝固療法を行った.1カ月後,DS-PAGでは両下肺動脈の再閉塞を認めたが,肺動脈圧は23/8(13)mmHgまで改善していた.結論:潰瘍性大腸炎でも重症度分類で中等度以下の症例であれば,貧血の進行や便潜血反応の増悪を確認しながら少量のt-PAによる血栓溶解療法を施行することにより,急性広汎性肺動脈血栓塞栓症でも有効な治療効果が得られると考えられた.