著者
松井 愛子
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

テロメア短縮によって誘導される細胞老化時にはオートファジーを始め、細胞体積変化などの様々な形質変化が誘導されることがこれまでの研究結果から明らかとなった。しかしそれらの分子機構はまだわかっていないものも多い。そこで、細胞老化時に起こるオートファジーを始めとした形質変化の分子機構を明らかとし、その生理的意義を解明することを目的とした。昨年度の研究から、細胞老化時にはオートファジーが誘導されることでTORC1活性が低下することを明らかにした。そこで、本年度ではいくつかのオートファジー変異細胞を用いて細胞老化時のTORC1活性を解析したところ、その中にはTORC1活性を低下させる変異細胞はなかった。次に、細胞老化時オートファジーの誘導原因を解明するために、テロメアタンパク質であるRap1との関連性を解析した。その結果、テロメア短縮時にRap1の発現量は低下するが、Rap1の発現量が低下してもTORC1活性の低下は見られなかったことから、Rap1発現量の変化とオートファジー誘導とに因果関係がないと考えられる。一方老化細胞で見られる形質変化の一つである、液胞体積増大の原因を解析するために、高浸透圧ストレス応答反応を調べた。すると、老化した細胞では高浸透圧ストレス応答機能が低下していることがわかった。そこで、高浸透圧ストレス応答異常とRap1発現量変化との関連性を解析したところ、Rap1発現量の低下に伴い、液胞体積の増大と高浸透圧ストレス応答異常が引き起こされることがわかった。つまり、老化した細胞では、Rap1の発現量が低下することで高浸透圧応答異常を引き起こし、液胞体積が増大することが示唆された。今回の結果から、細胞老化時に見られる形質変化の分子機構の一端が解明され、今後の老化研究の進展に貢献することが期待される。