著者
河本 和朗 石川 剛志 松多 範子 廣野 哲朗
出版者
飯田市美術博物館
雑誌
伊那谷自然史論集 (ISSN:13453483)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-17, 2013-03-31 (Released:2019-06-05)

中央構造線は8000万年以上の活動史を持つ.現在の地表で見られる剪断帯の岩石は,深部から上昇を繰り返しながら,異なる深度で繰り返し剪断変形と変質を受けてきた.それらの断層岩の原岩と剪断変形・変質の履歴は活動史の解明の基礎的な情報になる.しかし剪断変形・変質した岩石は原岩と見かけが大きく異なり,薄片の偏光顕微鏡観察によっても原岩の判定が困難なものがある.今回,安康露頭内で見かけが類似する領域ごとに試料を採取して全岩化学分析を行った.薄片観察の結果と化学分析の結果を対比したところ,薄片観察で原岩を推定できた領域については両者の結果はよく一致した.また,強く変質して薄片観察では原岩を特定できなかった淡緑色の変質部は,全岩化学分析で領家帯の斑れい岩質組成であることが明らかになった.ただし薄片観察で淡緑色変質部東縁付近に三波川変成帯の石英片岩が確認され,その東側には断層を介して領家花崗岩類由来のマイロナイトが確認された.さらに東側には別の断層を介して三波川変成帯の泥質片岩が接している.ただしマイロナイトを含むブロックの両側の断層は露頭下部で収れんし,下部では緑色変質部と泥質片岩が接している.そこで緑色変質部東縁でスポット的に見つかった三波川石英片岩の分布と,化学分析で明らかになった領家斑れい岩質組成の部分との境界を明らかにすることが今後の課題である.