著者
松崎 稔晃 益川 眞一 河津 隆三 原 賢治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P2384, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 骨粗鬆症による脊柱変形や加齢に伴う椎間板の変性など原因は多様であるが、よく観察される高齢者の異常姿勢のひとつに円背がある.この円背は呼吸機能低下や嚥下の際の過剰努力など多種多様な影響を全身に及ぼすが、その中で今回は脊柱のアライメントと下肢の運動連鎖に着目し、円背と下肢の筋力バランスの関連性を検証することにした.これにより日々行っている理学療法プログラムやホームエクササイズ指導を再考し、今後起こりうる変形性膝関節症などの二次的な疾患の予防等にも役立つのではないかと考えた.【対象・方法】 既往に中枢疾患がなく下肢関節に不定愁訴のない円背を呈している患者20名(平均年齢82.2±7.5歳、以下 円背有り群)、円背を呈していない患者20名(平均年齢76.3±6.2歳、以下 円背無し群)を対象とした.ここで、円背については明確な定義がないので、今回は体幹伸展可動域0度以下の患者を対象とした.測定方法はOG技研製徒手筋力センサーGT-310を用い膝関節屈曲・伸展筋力、足関節底屈・背屈筋力を両側下肢について測定した.測定値については3回測定し、その最大値を測定データとした.膝関節伸展筋力最大値/膝関節屈曲筋力最大値(以下 膝関節筋力比)、足関節背屈最大値/足関節底屈最大値(以下 足関節筋力比)のデータに関してMann-Whitney U検定にて円背有り群、円背無し群間での有意性を比較検討した.【結果】 統計処理の結果、両側下肢の膝関節筋力比において円背有り群、円背無し群間で有意差を認めた(P<0.01).すなわち両側下肢ともに円背有り群は円背無し群と比較して膝関節筋力比が高値を示した.一方、両側下肢の足関節筋力比において円背有り群、円背無し群間で優位な差は認めなかった.【考察】 後藤によると、電気生理学的研究において円背症例では股関節・膝関節の屈筋群と伸筋群はともに正常姿勢例と比較するとより過剰な筋活動を要求されるが、その中でも大腿前面筋により大きな筋活動を要求されたと報告している.また、運動学的観点から考えてみると、円背に伴う脊柱後彎・骨盤後傾により、股関節は屈曲、膝関節は屈曲・内反・内旋位を呈する.これにより股関節の伸展モーメントを生み出すことができず、膝関節では伸展のモーメントの必要性を余儀なくされ、過剰な負担を担う.これらの電気生理学的・運動学的側面から考え、円背症例では、ハムストリングスよりも大腿四頭筋により大きな筋活動が要求され、このことが膝関節筋力比が高値を示したという結果になったのではないかと推測した.【まとめ】 現在の円背症例に対する運動療法は、体幹の可動域訓練、腹筋群・背筋群の筋力増強訓練とともに大腿四頭筋の筋力増強訓練を推奨している教科書や文献が多い.しかし今回の結果からこれまで行われてきた運動療法の中に膝関節屈筋群の筋力増強訓練の必要性も示唆された.