著者
松本 幸久
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.11-20, 2008 (Released:2008-04-10)
参考文献数
53
被引用文献数
1 1

学習や記憶は,動物が環境に適応するために必要な脳の基本機能といえる。学習・記憶の神経機構の解明は神経行動・生理学分野における重要課題の1つであり,これまでに様々な動物種を用いた研究が進められている。筆者は,行動学や感覚生理学の材料として馴染みのあるフタホシコオロギが,高度な匂い学習・記憶能力を持つことを行動実験的に明らかにした。本稿では筆者の研究によって得られた知見を中心に,コオロギの匂い学習と記憶について紹介する。まずは,古典的条件付けにより匂い学習が容易に成立することを示す。次にコオロギの匂い学習・記憶能力のうち,1)記憶保持能力,2)記憶容量,3)状況依存的学習能力について紹介する。そして,炭酸ガス麻酔処理や薬物の投与によって,コオロギの記憶が性質の異なる4つの記憶の相に分けられることについて述べる。