著者
松本 康嗣 川崎 秀和 鵜飼 啓史 長壁 円 内藤 浩一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2222-C4P2222, 2010

【目的】我々は先行研究において内反捻挫後の背屈動作で足趾伸展を伴う足関節外反と関節軸のずれを報告した。実際に臨床で内反捻挫後の症例をみると足関節機能の低下に加えスポーツ動作時にマルアライメントを呈する例が多い。そこで今回の目的は捻挫による足関節・足趾への影響と動作時アライメントとの関連を検討し、リハビリテーションの一助とすることとした。<BR>【方法】内反捻挫後の症例(うち男性3名、女性7名、平均年齢19.1歳、身長164.6cm、体重59.7kg)を対象としビデオカメラを用いフォワードランジ動作を前額面・矢状面で撮影した。得られた映像をアニマ製二次元動作解析装置に取り込み、動作時アライメントとして足趾伸展角度、足関節背屈角度、舟状骨高、膝関節外反角度を計測した。同時に足関節機能として、背屈・底屈・内反・外反のROM・筋力を測定した。背屈、底屈の筋力に関して、背屈では自然背屈と足趾屈曲位での背屈筋力を、底屈では母趾球と小趾球での底屈をそれぞれ測定した。筋力の測定にはHOGGAN製MICROFET2を用いた。検討項目は足関節機能・動作時アライメントの健側・捻挫側の差と、足関節機能・動作時アライメントの相関関係とした。それに加え、先行研究の結果より内反捻挫後の足趾伸展に着目し、接地時に足趾伸展が見られる例を足趾伸展タイプ、その他の例をノーマルタイプとし、足関節機能・動作時アライメントでそれぞれ2群間の差を検討した。<BR>【説明と同意】被検者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の目的、方法、危険性について十分に説明し同意を得ておこなった。<BR>【結果】足関節機能に関して、ROMでは捻挫側で背屈、底屈、内反、外反すべてにおいて低下が見られた。筋力では足趾屈曲位での背屈、小趾球での底屈、内反、外反で有意に低下が見られた。動作時アライメントでは足趾伸展角度、足関節背屈角度、舟状骨高において有意差は見られなかった。膝関節外反角度に関しては捻挫側で有意に増大が見られた。足関節機能と動作時アライメントの相関では足趾伸展角度と内反ROMとの間に負の相関が見られた(r=-0.79、p<0.01)。舟状骨高と内反筋力・外反筋力(r=0.68・r=0.835、p<0.05)それぞれに正の相関が見られた。足趾伸展タイプ・ノーマルタイプの2群間の比較では足趾伸展タイプで母趾球での底屈筋力と膝関節外反角度が有意に高値を示した。<BR>【考察】足関節捻挫後の影響として足関節外反筋力の低下や腓骨筋反応時間の遅延などが報告されており、今回の結果からも外反筋力の低下が見られた。今回の結果ではそれに加え、内反筋力の低下が見られることや、足趾屈曲位での背屈筋力・小趾球での底屈筋力に低下が見られることから、内反筋の活動低下が著明であると考えられる。<BR>内反筋力と舟状骨高では正の相関が見られており内反筋力が低下することで内側縦アーチの低下に繋がると考えられる。内側縦アーチの低下に伴い、足関節の回内が増大し、捻挫側の膝関節外反の増大に繋がったと考える。足趾伸展タイプではノーマルタイプと比べ、母趾球での底屈筋力で高値を示しており、底屈動作で外反の要素が大きいと考えられる。足趾伸筋は足関節外反作用があることから足趾伸筋の過活動によって足関節外反を伴う底屈が起きていると考える。足趾伸展の過活動が起こる要因としては足関節内反角度の減少が考えられる。今回の結果より、足趾伸展角度と足関節内反ROMに負の相関がみられたことから、内反捻挫の症例では外側組織が炎症・瘢痕化し内反ROMが減少することで、内反時の疼痛が起こり、疼痛回避のため外反位を保持するため、外反の作用を持つ足趾伸筋にスパズムが起こり過活動に繋がると考える。足趾伸筋の過活動により、接地時の背屈筋での遠心性収縮時に前脛骨筋の活動が減少し内側縦アーチの保持が困難となる。アーチの低下により足関節回内が増大し足趾伸展タイプでは動作時の膝関節外反の増大が著明に見られたと考える。以上のことから、足関節内反捻挫後の治療として従来のアプローチに加え、内反筋である前脛骨筋・後脛骨筋へのアプローチが重要だと考える。特に足趾伸展を伴う例においては、足趾伸筋の過活動に注意し足趾や足部アーチの機能低下に対するアプローチを行い、動作時アライメントの改善を行うことが重要であるといえる。<BR>【理学療法研究としての意義】足関節内反捻挫後の理学療法評価、治療を行う際、足関節機能に対するアプローチだけでなく、動作時アライメントや足趾の機能への選択肢が拡大する可能性が示唆された。<BR>