著者
松本 望希
出版者
近畿大学全学共通教育機構教養・外国語教育センター
雑誌
近畿大学教養・外国語教育センター紀要. 外国語編 = Kindai university center for liberal arts and foreign language education journal. Foreign Language edition (ISSN:2432454X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.33-46, 2020-07-31

[抄録]本論は、バーナード・ショー『医師のジレンマ』(1906)における医師たちの表象に注目し、ショーが医療において生じるジレンマ、すなわち「命の価値を医師が恣意的に決めてしまうこと」に対して、そうしたジレンマを感じてしまうこと自体が誤りであると考えていることを明らかにするものである。さらにショーは、当時英国社会において、賛否両論を巻き起こしていた動物の生体解剖論争を通して、舞台空間と現実社会の問題を接合することを試みた。「悲劇」という副題をもつ本作品は、従来その皮肉めいたプロットから、ショー流の諷刺が利いた「喜劇」的なもの、すなわち悲喜劇として解釈されてきた。一方で本論では、作中で取り上げられる医療倫理の問題そのものは「悲劇」的なものであることについて検討する。