著者
松本 栄次
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.50-62, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ブラジル北東部地方(ノルデステ)の主要な地生態系としては, 1) 湿潤熱帯気候下で深層風化した結晶質岩地域に発達するマール・デ・モロス型地生態系, 2) 同じく湿潤熱帯気候下で,未固結の堆積物からなる台地地域に見られるタブレーロス型地生態系,および, 3) 熱帯半乾燥気候下で有刺灌木林(カーチンガ)に覆われた侵食小起伏面からなるペディプレーン型地生態系がある。それぞれの地生態系における植生の破壊によって生ずる特徴的な劣化プロセスは,ハーフオレンジ(円頂丘)斜面におけるラテライト皮殻の形成,タブレーロス台地面における「白砂」の生成,および土壌侵食によるペディプレーンの露岩地化である。 ほとんど石英砂のみからなる不毛な土壌である白砂の生成は湿潤熱帯でもっとも特徴的な地生態系劣化プロセスのひとっである。タブレーロス台地上の白砂は,鉄・アルミニウム酸化物が地下浅所に析出して形成されたハードパンを不透水層として,その上に貯留され,またはその上を流動する酸性の浅層地下水の作用によって生成される。 タブレーロス台地面のように砂質な土壌の場合,森林の伐採によって蒸発散量が減少し土壌水分が増加する傾向がある。このような地中水の増加・地下水面の上昇は,ハードパンを浅所に形成し白砂を生成する上で有利な条件である。こう考えると,人間が白砂の生成を助長している可能性が高いと言える。