著者
松本壮吉 尾関百合子
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.127-134, 2014-05-25

結核はAIDSやマラリアと並ぶ世界三大感染症であり,2013年には860万人の発症と130万人の死亡をもたらしている。WHOは2050年までに結核の根絶を目指しているが,それには新薬に加え,効果的な新ワクチンが必要であろう。我々は結核の病原体の源泉である潜在性結核について,その機構を解析してきたが,潜在性結核の90%が終生結核を発症しないという事実は,ワクチン開発のよりどころになると考える。現行の結核ワクチンBCG(Mycobacterium bovis bacille Calmette-Guérin)は小児の粟粒結核や結核性髄膜炎に対して顕著な効果をもつ一方,結核発症の多くを占める,内因性再燃に起因する成人型肺結核に対する効果は低調である。BCGは生ワクチンで,投与後も長期にわたって宿主内で生存することから,効果は持続すると考えられてきたが,実際には投与後,時間経過とともに減衰する。我々はマウスモデルにおいてもBCGの防御効果が経時的に低下することを見出している。本稿では,結核ワクチン開発に関する現状と潜在期の抗原を利用した新しい結核ワクチンの開発に向けた私たちの取り組みについて紹介する。