著者
横田俊平 黒岩義之 大西孝宏 中島利博 中村郁朗 西岡久寿樹
出版者
医薬ジャーナル社
雑誌
アレルギー・免疫 (ISSN:13446932)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.786-793, 2018-05-15

HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種後に多彩な症状を呈する副反応症例の解析により,症候学的に,① 生命機能,② 高次脳機能・辺縁系,③ 感覚機能,④ 運動機能の4つの機能の恒常性の破綻が推定され,HPVワクチンのL1抗原とアジュバントによる視床下部・脳室周囲器官の病変が原因と推定された。一方,ASIA(Autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants)症候群は,アルミニウム塩,シリコンのアジュバント作用に由来し,自己免疫疾患はアジュバントによる慢性刺激が原因であると推定された。いずれも症候を詳細に検討する余地が残されており,今後,一般的症候との差異を明らかにする必要がある。
著者
千貫祐子
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.48-55, 2017-12-15

筆者はこれまでに,本邦における獣肉アレルギーの主要な原因抗原エピトープが米国からの報告と同様,糖鎖galactose-α-1, 3-galactose(α-Gal)であることを報告した。α-Galが原因の獣肉アレルギー患者は,交差反応のために,抗悪性腫瘍薬のセツキシマブやカレイ魚卵にもアレルギーを生じる。そして,マダニ唾液腺中にα-Galを証明したことにより,獣肉アレルギーの感作原因がマダニ咬傷であろうことが判明した。さらに,筆者は最近,飼い猫に感作され,交差反応のために豚肉アレルギーを発症したと思われるpork-cat syndromeの小児例を経験したので紹介する。
著者
赤坂圭一 中田光
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.28-35, 2013-11-25

肺胞蛋白症においてマクロファージおよび好中球の貪食殺菌機構の障害が起き,易感染性となる。自己免疫性肺胞蛋白症ではGM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor:顆粒球単球コロニー刺激因子)シグナルの障害にともない易感染性となるが,免疫不全症には至らない。合併頻度の高い感染症は,ノカルジア症,アスペルギルス症,抗酸菌感染症である。自己免疫性肺胞蛋白症にともなう感染症は免疫不全症にともなうものとは異なり,比較的良好な治療効果が見込まれる。続発性肺胞蛋白症にともなう感染症は致死的となる可能性がある。自己免疫性肺胞蛋白症においてステロイド薬および免疫抑制薬は効果を期待できないとされるが,投与歴のある症例は少なくないと推定され,易感染性の増強が危惧される。
著者
神田善伸著
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
2009
著者
安田二朗
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.33-40, 2013-07-25

ウイルス性出血熱はウイルス感染が原因で引き起こされる疾患で,初期症状はインフルエンザ様であるが,病態が進行すると,出血(皮下,粘膜,臓器),多臓器不全などを呈するきわめて致死性の高い疾患である。これまでに4つのウイルス科に属する15種類以上のウイルスが原因ウイルスとして同定されている。ほとんどのウイルス性出血熱には有効なワクチンや治療法はなく,代表例である,エボラ出血熱,マールブルグ病,ラッサ熱,南米出血熱,クリミア・コンゴ出血熱はわが国の法律で一類感染症に指定されている。本稿ではこれら5つのウイルス性出血熱を中心に概説する。
著者
岸本歩 宮地修平 西村真美 中村友美
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.857-861, 2019-03-01

吃逆(しゃっくり)は横隔膜の不随意のけいれん性収縮によって生じ,吸気が閉鎖している声門を急激に通過するために特有の音が発生する。通常反復して発生するが,一過性のことが多い。しかし長時間持続し,食物摂取困難,不眠,精神的疲労をきたすこともあるため,その治療法を十分に知っておく必要があると言われている。薬物治療においては,クロルプロマジンを除き適応外使用であるため,エビデンスに乏しい。独立行政法人国立病院機構姫路医療センターでは,吃逆の治療薬として院内製剤の柿蔕(シテイ)の煎じ薬が使用されている。我々は薬剤師として,とりわけがん化学療法中の患者に使われる事例を多く経験したので,それらの事例解析をとおして,柿蔕の位置づけを考察した。
著者
原田紗希 西田承平 小林亮 鈴木昭夫 伊藤善規
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.687-692, 2017-02-01

医療過誤の減少に向けてさまざまな取り組みが行われており,薬剤師はその職能を生かして医療安全に貢献することがさらに強く求められている。薬剤に関連する過誤(メディケーションエラー)は最も典型的な医療過誤であり,指示伝達ミス等のコミュニケーションエラーは過誤の主な発生原因の一つである。実際に岐阜大学医学部附属病院において発生したメディケーションエラーを解析したところ,インスリンスライディングスケール(SSI)に関連する過誤の多くに,指示伝達ミス等のコミュニケーションエラーが関与していた。そこでSSIに関連する過誤の減少を目指して,薬剤部,糖尿病代謝内科および医療安全管理室が協働で院内統一の指示記載様式(テンプレート)を作成した。本報告ではSSIの院内統一テンプレート導入までの経緯と導入後の効果について紹介する。
著者
鈴木亮
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.81-85, 2019-01-01

インスリンは,インスリン様成長因子(IGF)と同様に,細胞増殖作用を持つ。2004年の後ろ向きコホート研究で,インスリン治療を受けている2型糖尿病患者の結腸直腸がんの発症リスクは有意に高く,また年数が長いほどリスクは上昇していた。2009年には,欧州糖尿病学会誌Diabetologiaに4本の論文が同時掲載され,インスリングラルギン長期使用時の発がん性の懸念が大きく注目された。現在もインスリン製剤とがんの関連性に結論は出ておらず,継続的に検討が行われている。2016年のグラルギンに関する系統的レビューでは,観察期間の短さや時間関連バイアスなど,方法論的な限界が指摘されると同時に,特に乳がんリスクについては不確実さが残るとしている。
著者
末木博彦
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.1636-1641, 2013-10-15

小児のアトピー性皮膚炎では国内外の疫学研究から肥満と有意の関連性があり,特に幼児期に一定期間持続した肥満がアトピー性皮膚炎の病態悪化に関与する可能性がある。これに対し,成人アトピー性皮膚炎では肥満との関連性を示唆する米国の疫学研究があるが,わが国を含め現在までのところこれを支持する報告はない。肥満とアトピー性皮膚炎を結びつける機序としてアディポネクチンの低下に伴うIL-10の発現低下により抑制系が働かないこと,レプチンを介するTh1/Th2バランスの変化,TNF-αの発現亢進によるアレルギー炎症の増悪などが想定されている。
著者
亀崎豊実
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.43-53, 2018-12-30

溶血性貧血は,高齢者でみられる貧血の原因としては比較的稀であるが,しばしば急性発症し重篤になり得る。貧血患者に黄疸や乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇を認めた際には,溶血を念頭に置いて検査を進める必要がある。高齢者の溶血では,後天性の溶血性疾患である自己免疫性溶血性貧血や発作性夜間ヘモグロビン尿症,赤血球破砕症候群,薬剤性溶血などが主な鑑別疾患としてあげられる。輸血以外の包括的な治療法が存在しないことから,病型診断の確定が治療法選択や予後の推定に重要である。
著者
松本壮吉 尾関百合子
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.127-134, 2014-05-25

結核はAIDSやマラリアと並ぶ世界三大感染症であり,2013年には860万人の発症と130万人の死亡をもたらしている。WHOは2050年までに結核の根絶を目指しているが,それには新薬に加え,効果的な新ワクチンが必要であろう。我々は結核の病原体の源泉である潜在性結核について,その機構を解析してきたが,潜在性結核の90%が終生結核を発症しないという事実は,ワクチン開発のよりどころになると考える。現行の結核ワクチンBCG(Mycobacterium bovis bacille Calmette-Guérin)は小児の粟粒結核や結核性髄膜炎に対して顕著な効果をもつ一方,結核発症の多くを占める,内因性再燃に起因する成人型肺結核に対する効果は低調である。BCGは生ワクチンで,投与後も長期にわたって宿主内で生存することから,効果は持続すると考えられてきたが,実際には投与後,時間経過とともに減衰する。我々はマウスモデルにおいてもBCGの防御効果が経時的に低下することを見出している。本稿では,結核ワクチン開発に関する現状と潜在期の抗原を利用した新しい結核ワクチンの開発に向けた私たちの取り組みについて紹介する。
著者
山岸由佳 三鴨廣繁
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.103-108, 2017-09-25

GeneXpert法は項目ごとに設計された専用試薬のXpertカートリッジとともに使用され,核酸抽出,PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)増幅,検出を統合した自動遺伝子解析システムで,技術者の訓練レベルにかかわらず,数分の簡便な用手法操作後,全自動で正確な結果を迅速に供することが可能である。現在,Xpert MTB/RIF「セフィエド」が保険適応を有し,Xpert C. difficile「セフィエド」が承認を得ている。
著者
寺田智祐
出版者
医薬ジャーナル社
雑誌
医薬ジャーナル (ISSN:02874741)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.1383-1385, 2018-06-01

2017年のノーベル経済学賞は,行動経済学に関する業績であった。実は,行動経済学が脚光を浴びたのは,2002年のノーベル経済学賞まで遡る。当時の受賞理由は,「不確実性下における人間の判断や意思決定に関して,心理学の研究成果を経済学の考え方に統合したこと」とある。それまでの伝統的な経済学では,「ホモ・エコノミカス」と呼ばれる,非常に合理的で,完全な情報と計算能力を持っていて,常に自分の満足度を最大化するように行動する人間像を想定していたが,行動経済学は従来の説に対する強烈なアンチテーゼでもあった。振り返って,医療界はどうであろうか?例えば,患者は常に病気の治療に前向きに取り組み,医師の指示には100%従い,治療中の様子を医療者へくまなく報告する者ばかりであろうか?実際そうでないことは,誰でも知っている。本稿では行動経済学が示唆してくれる,行動科学の知見について紹介したい。
著者
内田奈生 熊谷直憲 根東義明
出版者
医薬ジャーナル社
雑誌
血液フロンティア (ISSN:13446940)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.205-214, 2019-01-30

腎臓は生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしており,腎機能が低下すると高血圧,浮腫,電解質異常,心不全などが起こる。慢性腎臓病の患者数は増加の一途であるが,現行の治療は対症療法や進行抑制にとどまり,失われた腎機能を回復する手段は腎移植のみである。そのため,腎臓の再生医療に期待が寄せられ,研究が進められている。本稿では,腎臓病に対する幹細胞治療の現状,Muse細胞を用いた腎臓病治療の基礎実験と展望を紹介する。