著者
松本,眞
雑誌
日本統計学会誌. シリーズJ
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2006-03

漸化式を用いて乱数のように「見える」数列を発生し,乱数として利用することを擬似乱数発生という.真乱数発生に比べて高速・低コストであるほか,初期シードと漸化式を記録すれば誰でも再現可能であるため追試を行いやすいなどのメリットがある.しかし,現在科学技術計算ライブラリなどで通常利用されている擬似乱数の多くに無視できない欠陥があり,擬似乱数ユーザを混乱させている.一方で,これらの欠陥を考慮して筆者と西村拓士が97年に開発し普及が進んでいるMersenne Twister法では,周期が2^<19937>-1で623次元空間に均等に分布しているなどの数学的な保障があり,大規模な統計的検定にも合格している上,実際に数兆個単位でシミュレーションに利用されている.本稿は,ユーザに届きにくい擬似乱数開発者側の情報,すなわち漸化式・既知の欠陥・評価方法などを解説することにより両者の距離を縮め,研究成果を共有し刺激しあうことを目的とする.