著者
村本 勇貴 岩本 航 我妻 浩二 田中 直樹 榊原 加奈 村上 純一 石渕 重充 松橋 朝也 笠間 あゆみ 岡田 尚之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1286, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】青少年期のスポーツ選手において,腰痛はスポーツ活動の障害因子となっている。本研究の目的は,当院で行った中学生サッカー選手に対するメディカルチェックから,腰痛のある選手の身体特性を調査することである。【方法】男子中学生サッカー選手21名(平均年齢13.0±0.5歳)を対象とした。事前に身体状態に関するアンケート調査を行い,群分け(腰痛群・非腰痛群)を行った。メディカルチェック項目は,下肢伸展拳上(以下,SLR)・殿踵距離(以下,HBD)・ディープスクワット(以下,DS)・ホップテスト(以下,Hop)とした。疼痛のためメディカルチェックを遂行できない者は除外した。統計処理は群間比較にはSLR,HBD,Hopについては対応の無いt検定を用い,DSについてはマンホイットニーU検定を用いた。有意水準は5%とした。【結果】腰痛を有する選手は21名中5名(23.8%)であった。腰痛群は(身長:159.9±0.7cm,体重:45.8±5.4kg,BMI:17.9±1.3,SLR(右:60.0±7.1°,左:57.5±5.0°),HBD(右:10.5±3.9cm,左:10.3±3.8cm),Hop(右:7.7±1.8秒,左:7.7±0.5秒),DS:2.2±0.5点)という結果であった。非腰痛群は(身長:157.2±0.7,体重:44.1±7.3kg,BMI:17.7±2.0,SLR(右:62.9±9.0°,左:62.4±7.7°),HBD(右:4.9±4.2cm,左:4.0±3.1cm),Hop(右:7.3±0.5秒,左:7.4±0.7秒),DS:2.4±0.7点)という結果であった。HBDは腰痛群で有意に大きかった(右:p=0.05,左:p=0.03)。その他の項目では腰痛群と非腰痛群で有意差は認められなかった。【結論】我々のメディカルチェックの結果では,腰痛群のHBDが有意に大きかった。HBDは股関節伸展位で行う膝屈曲テストであるため,今回の結果は大腿四頭筋の中でも2関節筋である大腿直筋の柔軟性低下による影響が考えられる。先行研究では腰痛を有する青年期のスポーツ選手は股関節屈曲筋の柔軟性が低下すると報告されている。またサッカー競技では,股関節伸展を腰椎の伸展で代償する選手で腰椎に加わるストレスが増加すると報告されている。以上のことから,サッカー選手における股関節屈曲筋群の柔軟性低下と腰痛とは関連があるものと考えられ,本研究での腰痛群でHBDが有意に増加したものと推測された。本研究の結果,HBDが大きいサッカー選手は腰痛が生じやすいことが示唆された。今後は,腰痛を有するサッカー選手に対してHBD改善の介入が有効であるか検証する必要があると考えられる。
著者
宮下 浩二 松橋 朝也 播木 孝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1214, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩甲骨のマルアライメントは投球障害の発生要因の一つとする報告は多く,その問題を実感することは少なくない。投球障害を有する選手は投球側の肩甲骨が非投球側よりも外転変位していることが多く,その評価として肩甲骨内側縁から脊柱までの距離を測定する方法が多く用いられている。しかし,人類学的には鎖骨・肩甲骨は左側が有意に大きい(坂上2003)ことが明らかにされており,脊柱と肩甲骨の距離を評価するためには骨格比を考慮する必要があると考える。そこで今回は,肩甲骨の大きさを基準に肩甲骨外転変位の評価を行った。【方法】対象は肩に投球障害の既往と現病のない右投げの高校野球選手38名とした。両側肩甲棘基部,両肩峰角,C7とTh5の棘突起に反射マーカを貼付し,安静立位の背面からデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフトを用いて次の3つの距離について左右ともに算出した。①内側縁距離(C7とTh5の結線を基線とし,基線から肩甲棘基部までの距離),②肩峰距離(基線から肩峰角までの距離),③肩甲骨幅(肩甲棘基部から肩峰角までの距離)とした。次に投球側において,④肩甲骨幅を基準とした際の内側縁距離の割合(①/③×100)を算出した。統計的分析として,①,②,③の左右差について検定した(対応のあるt検定)。また,①と④の相関を検定した(ピアソンの相関係数)。さらに①内側縁距離の左右差と②肩峰距離の左右差の相関も検定した。【結果】①内側縁距離は右9.2±1.6cm,左8.1±1.6cmで有意に右が大きかった(p<0.01)。②肩峰距離は右19.3±3.0cm,左19.5±3.2cmで有意な差はなかった(p=0.39)。③肩甲骨幅は右10.1±1.8cm,左11.3±2.0cmで有意に右が小さかった(p<0.01)。④は93.0±17.3%であり,①と④にはr=0.47(p<0.01)の相関があった。また,①の左右差と②の左右差には有意な相関はなかった(r=0.49,p=0.65)。【結論】野球選手の内側縁距離は投球側が非投球側より大きい点は先行研究と一致していた。しかし,肩峰距離で外転変位を評価すると左右差はないことになる。これは,肩甲骨幅が先行研究と同様に右側が左側より小さいため,内側縁距離で右側の肩甲骨がより外転位になっても肩峰距離に左右差がなかったと考えられる。一方,内側縁距離を肩甲骨外転変位の指標とする報告は多いが,骨格の個体差を考慮すると基準値が必要になる。①と④は強い相関関係とは言えず,同時に内側縁距離の左右差と肩峰距離の左右差には有意な相関がないことからも,測定方法により外転変位の評価が異なることになる。野球選手の肩甲骨のアライメント変化は投球に対する適応とする報告(Seitz 2012,松橋2016)もある。野球選手の肩甲骨外転変位の測定値に対する評価は,絶対値のみならず骨格との比較等も必要であり,さらには投球時の肩甲骨の運動や肩甲上腕関節との連動への影響も踏まえる必要があると考える。