著者
川原谷 浩 松田 英裕 松葉谷 治
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
地すべり (ISSN:02852926)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.48-55, 1999-03-15
被引用文献数
7 8

地すべりが活動する誘因の1つに地すべり崩積土中の間隙水圧の増加が挙げられる。間隙水圧の増加は集中豪雨や融雪水などに起因する場合が多く, 降雨 (雪) 水の地下への浸透や地下水との混合のプロセスを解明することは, 地すべりの防止や予知に重要な情報を提供することが期待される。本論文では様々な水の挙動を把握するために有効な追跡子である酸素・水素安定同位体比を用い, 降水が地下に浸透し涵養域に至るまでの過程を検討した。<br>調査地域として, 地質状況が把握され, 水抜き用集水井が数多く設置されている秋田県・谷地地すべりを選び, 集水井から排水される地下水や周辺の地表水の同位体比を測定した。その結果, 集水井ごとに岡位体比の変化幅がそれぞれ異なることが判明した。このことは降水が地下に浸透してからの地質状況や浸透距離 (時聞) を反映しているものと推定される。そこで降水の季節変動を利用したモデル計算で平均滞留時間を試算したところ, 短期間の地下水で2ヶ月程度, 長期間の地下水で1年程度で流入から排水に至ることが判明した。