著者
松谷 太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.75-87, 2022 (Released:2022-11-01)
参考文献数
51

がん細胞のゲノムには多数の突然変異が含まれており、それらは変異プロセスと呼ばれる何らかの原因によって引き起こされたものである。一部の変異プロセスは、変異の種類(一塩基置換や構造バリアント等)や周辺の塩基情報に依存した特定の変異を引き起こしやすいことが知られており、そのような変異のパターンを変異シグネチャーと呼ぶ。個人の腫瘍に含まれる多数の突然変異は複数のシグネチャーが作用した結果と解釈することが可能であり、そのようなシグネチャー解析は変異をその原因と結びつけるという意味で発がん過程の分子的なメカニズム解明の一助となる他、個別化医療の現場におけるバイオマーカーとしての利用が期待されている。本総説では、変異シグネチャーの推定手法としてオミクスデータに対する教師なし学習を中心に概説した後に、がんゲノム研究における応用例を紹介し、今後の展望について議論する。
著者
松谷 太郎 宇恵野 雄貴 福永 津嵩 浜田 道昭
雑誌
研究報告バイオ情報学(BIO) (ISSN:21888590)
巻号頁・発行日
vol.2017-BIO-50, no.33, pp.1-6, 2017-06-16

がんゲノムの変異パターンと,その背景にある変異源の分布は変異シグネチャー (Mutation Signature : MS) と呼ばれ,本研究では機械学習の手法を用いてこれを明らかにする.MS の推定は発がんメカニズムの解明の後押しになるなど重要な課題であり,先行研究では非負値行列因子分解や混合メンバーシップモデルを使った学習が行われていたが,MS の数が予測困難である等の問題点がある.本研究では MS ごとの変異の生成過程に対して潜在的ディリクレ再配置 (LDA) と呼ばれるトピックモデルを採用し,サンプルごとの体細胞突然変異からその背後にある生成モデルを推定する.学習に変分ベイズ法を用いることで,変分下限から MS 数を予測することが可能となり,シミュレーションベースではその推定に成功した.また,COSMIC データベースを用いた実データ解析にも着手している.